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001:冒険者協会 聖都中央支部

ここは冒険者協会、通称は冒協(ぼうきょう)である。


俺の持っていた、首に下げたカード…冒協身分証明書(ステイタス・プレイト)はここで発行されたものらしく、ある程度の個人情報ならここで分かると思われる。

そういう説明を受けてやって来て、受付でどう説明したらいいか悩んだ挙句、直球で


「すみません、記憶を無くしてしまったんですけど……。」


と話し始めた結果……。最初はニコニコしてた受付のお姉さん。

まず怪訝そうな顔をし、からかわれていると思ったのか少し顔をしかめ、説明を続けるうちに困ったような表情になり、思い出して身分証明書ステイタス・プレイトを渡すと険しい表情になった。

引っ込んで同僚らしき人に相談し、解決しなかったのか年配の上司らしき人に相談し……。


俺は何故か応接室っぽい場所に案内され、お茶を出されていた。

トーヨー茶という茶葉が使われた茶色のお茶は、少し渋みがあり、華やかさには欠けるものの、心を落ち着かせる味わいで、ポロポロと崩れる謎の甘い菓子とよく合った。


そして、ノックと共に、その人物は現れたのである。


支部長:エレン=コーラル


落ち着いた風格のオッサンで、武器は持っていないものの、戦士の風格があった。

野生的なオールバックで、太い眉毛がチャームポイントのようだ。


で、俺はというと、菓子を口に運んでポロポロさせていたタイミングだったので大いに慌てた。


「そのままで結構ですよ。僕は固い挨拶や礼儀なんていうのは苦手でして。楽にしてくれると助かります。」


そう言われて安心したものの、食べきってしまえばいいのか、ポロポロ状態で置いていけばいいのか判断に迷うところだ。

とはいえ、この状況で頬張るのはおかしいだろう。

ここは置いておく一択だな、と思い、木でできているらしい光沢のある黒塗りの皿にそれを置く。

食べかけなので見た目がよろしくないが、仕方ないだろう。


ただし、口の中身はどうしようもできない。

もっきゅ、もっきゅと口を動かしていると、支部長のおっさんは話しかけるタイミングを掴めないようで、困ったように頭を掻いた。

困ったのは俺も同じである。口の中がパッサパッサで飲み込めないので、お茶で流し込んだ。


あれだけパッサパサだった菓子が、溶けるように無くなって、口の中がサッパリした。

不思議な食感だと感心していると、支部長がここぞとばかりに話しかけてきた。


「はじめまして、俺はこの聖都中央支部の支部長を勤める、エレン=コーラルといいます。君がレジオン君本人ですか?」


いや、それ、とても返答に困る。


「はじめまして。

俺が持ってた冒険者協会の身分証にはそう書いてありましたので、多分、としか答えられませんね。

首からかけていましたし、他人のものではない……と思うのですが。」


そう、俺は自分の名前さえ記憶にない。

この名前を呼ばれて反応できる気がしない程度に、レジオンという名前にピンとこない。


「記憶喪失と聞いているが、どの程度なのかわかりますか?

例えば、君の出身、生年月日、年齢は?」


俺は首を横に振る。


「すべてわかりません。ここが聖都アクオリアという事は拾ってくれた馬車で聞きましたけど、出身どころか、俺が何故ここにいて、どこから、どうして来たのかもわかりません。

今は何年何月何日で、春なのか秋なのかもわかりません。年齢は…体感的に16歳ぐらいでしょうかね?」


俺は自信を持って言える情報だけきちんと伝えるが、支部長は眉間に皺を寄せただけだった。


「あ、でも断片的になんか風景とかはこう…残ってるような……。」


まったく記憶が無いわけじゃない。

こうして喋れるだけの言語能力が残ってるし、何か思い出そうとすると色々な風景……平和な村や、高台から見下ろす森と湖、牧場のような場所、賑やかな都市、暗い洞窟や青空など、記憶の破片かけらのようなものが頭をぎるのだ。

その風景について考察を試みたが、それ以上思い出せるものは無く、その光景をよく思い出そうとすればするほど、ぼやけて消えてゆくような錯覚さえするのだ。


「ほう、それはどのような?」


と聞かれたのでそのまま答えたが、支部長の眉間の皺を取ることはできなかった。


「つまり、ほとんど何も覚えてないという事ですかね?」


そう言われて、確かに、と思い至る。

なんとなく記憶が無くて、なんとなく手がかりを追ってここまで来たが、確かに「ほとんど何も覚えていない」。


「あ、本当だ。やばい……俺、どうやって生活していったらいいんだ……。」


青ざめる俺に、支部長はようやく眉間の皺を解いたかと思うと、俺に憐憫の眼差しを送ったのだった。

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