008:午後の部 開始
午後の講習では組み分けがされた。
俺達はA~Dの5班に分けられ、3~4人づつを職員と冒険者が引率するとの事だ。
で、さっき知り合ったラトやルティエさんと同じ班に……ならなかった。
いや、ラトとルティエさんは同じD班になったんだが、俺は違う班に振り分けられた。
こう遠巻きにされると、気軽に話しかけてくれる顔見知りと組みたいところだが、くじ運がないのか?
で、俺の班はCである。……。
「人数多っ?!」
騎士さんゴメン。ビクッとしないで。
やたら人数が多いのは、貴族の男の子の護衛に就いている騎士のせいだ。
貴族の男の子、そして飯屋でナイフを落とした学生服の少年、同じく学生服の女の子がC班のメンツのようだ。
うーん、ちょっと仲間として冒険者PTに誘うには厳しそうな面々である。
仮にPTを組んだとして……。
貴族相手では気を使うし、というかどう気を使えばいいのかもわからない。騎士さんは仕事あるからね。
貴族の男の子が何故、冒協で講習を受けているのかは謎だが、冒険者として一緒に活動するには色々と無理がありそうだ。
学生では学校に通っている間はほとんど活動できないだろう。
結局、ソロで活動する事が多くなり、PTの意味を成さなくなる事は容易に想像できる。
それに、年がなぁ。
俺自身が頼られても困る状態なので、引っ張っていく事ができない。
気兼ねなく質問できそうだが、リーダーが子供と言ってもおかしくない年だと、プライド的にもきついものがある、かもしれない…。
そういえば、この学生2人組はさっきから顔色は悪いし会話が無いけど、喧嘩でもしたのか?
「俺の班はここか?ここがC班でいいんだな?」
引率兼護衛の冒険者がやって来た。
ついさっきまでB班で自己紹介をし始め、B班担当の冒険者に「お前はあっちだ」と教えられ、移動して挨拶をしたところ、A班担当の冒険者に「ここは私の班だ」と追い払われていた。
ちょっと引率としては不安の香る冒険者である。
というか、朝、こんな人いたっけ?
「「「………。」」」
「……。」「………。」
いや、誰か喋ろうぜ。
俺が口を開こうとした時、騎士の1人が歩み出た。
「はい、ここがC班です。よろしくお願いします。」
女性のようだ。全身鎧なので全然気付かなかった。
たらい回しから開放され、その冒険者は嬉しそうに笑った。
「おお、俺はカースと同じ班か!久しぶりに『当たり』を引いたな!
俺は『戦斧』のダズェル。二級冒険者だ。よろしくな!」
「あっ」という声が複数、小さく響き、シンとなる訓練所。
ダズェル(きんにく)はこっちを……明らかに俺を見ている。
気にしないようにしつつも気になる、といった感じの視線も集まっている。
レジオンて……。
有名なのは分かった。2つ名もついてるらしい。
で、何となく避けられている……いや、誤魔化すまい。カース=レジオンは恐れられている。
で、俺=カース=レジオンではないか?と疑われている…というかほぼ確信されているわけだ。
間違ってない(らしい)けど、俺は記憶も無いし関係無いんだよ。
イレギオで活動してんの。俺の名はイレギオ!
変に広まってるみたいだが、きっちり否定しておいた方が良さそうだ。
「それ、俺の事じゃないですよね?」
しかし、ダズェルは「何を言ってるんだ?こいつ?」とばかりに眉をひそめて言った。
「他に誰がいるんだ?それにしても西アカヒバ戦以来だな!ん?西アクヒバだったか?
あれから見かけぬから、どこかで野垂れ死んだかと思っていたぞ!はっはっは!」
知り合いかよ!
しかし、俺が彼を覚えているはずもないし、とにかく別人を装わなくてはならない。
顔を知っているらしいが、ほら、弟とかそんな感じで。
それでも知り合いに会えたなら丁度いい。俺の記憶の手がかりにもなりそうだ。
「すみません、人違いですね。俺の名前はイレギオと言います。
記憶を失っていまして、そのカースさんがどうも俺の知り合いらしく、手掛かりとして情報を集めています。
もし似ているなら、親戚か、もしかして兄弟なのかもしれませんが……。」
もしカースさんの情報をお持ちでしたら、色々教えてはもらえませんか?
と続ける予定だった。
こちらに猛然と向かってくる影が視界に入り、思わず言葉が途切れ、そんな俺の話を遮りるようにダズェルが話を続けた。
「いやいや、おmぐ… んぐ?」
いや、続けようとした。
支部長が暗殺者のごとく忍び寄り、肩を組むかのように羽交い絞めにしたのだ。
一見、友好的に見えるが、猿轡のごとくしっかりと口が押さえられている。
「いやーダズェルさんお久しぶりですね。ここ数日、ずっと探していたんですよ。
朝にもいらっしゃらないので、今日はお休みだと思ってました。いやー自由ですね貴方は。
この人はカースさんの同郷で友人のイレギオさんですよ。
ちょっと貴方に重要なOHANASIがあるので一緒に来てもらえますか?」
半分引きずるような形でダズェルさんを連れ去る支部長。
爽やかな笑みを浮かべているが、逆に怖い。
えーと?
冒険者が居ないと話が進まない気がするんだが、俺たちはどうすればいいんだろう…?
困って立ち尽くしているのは俺ばかりでは無いようだ。
俺たちのC班だけでなく、他の班の人達まで呆然と支部長の消えた出入り口のほうを眺めている。
「『戦斧』ダズェルって確か、真実の眼を持ってたような……」
他の班の学生さんが小さな声で呟いたのだが、静まり返った訓練場では割とよく通った。
スッと俺の周囲の空間が広がったような気がする。
真実の眼…?
そのままの意味だとしたら、真実が見えてしまう目か、道具を持っているという事か…。
俺がどんな奴だったかは知らないが、そんな引かなくてもいいと思うんだ。