プロローグという名の説明章
「目が覚めたみたいです。」
そんな声がした方を見やると、神官らしい女性が俺を見つめていた。
長くウェーブのかかった金髪に、清んだ青い瞳。
子供っぽく見えかねないくらい大きな目はまつげが長く、女性である事を主張するようだ。
髪が邪魔にならないよう、布で括られているが、それでもウェーブのかかった艶やかな髪はさらさらであると確信できる美しさだ。
ルティエ=ミリオン=ティオノール
後にPTを組む事になる、回復魔法が得意な準神官である。
「大丈夫ですか?」
「自分の名前が言えますか?」
「この指はいくつに見えますか?」
その問いのうち、俺は「自分の名前」が言えなかった。
自分の名前?はて?
俺は……誰だ?
というか、ここはどこだ?
見回すと、そこは荒野であった。
話を聞くと、彼女達は聖地巡礼の度から戻ってきた新米神官と、護衛に雇われた新米冒険者のPTで、この白い塗装の馬車で聖都に向う途中だったらしい。
旅も終わりが近づき、のんびりと馬車を走らせていたところ、さながら隕石のごとく俺が降って来たのだという。
現在、持ち合わせの服が着せられているが、防具などはボロボロでとても着られる状態じゃなかったという。
隕石のごとく……?
「え……まさかとは思いますけど、このクレーターって……。」
「ええ、貴方が飛んできた跡ですね。」
遠い目をしている神官のお姉さん。
飛んできた?!空から?どうやって???
しかもその着けていたという防具が酷い。
多分、控えめに言っても半裸状態の変態さんだったようだ。
そりゃ、他の人が遠巻きにして近づいてこないわけだ。
「一体、何があったんですか?」と聞いてきたが、俺が知りたい。
記憶喪失という話をしたところ、全員が訝しげな顔をした後、クレーターに視線をやった。
そして、勝手に納得の表情を浮かべた。
まぁ、あんな跡になるくらいの勢いで飛んできて頭でも打ったら、記憶喪失にもなる……
って死ぬわ!普通に考えて死ぬわ!!
俺の首に下げてある、辛うじて焦げ残ったような皮ひもに気付いた準神官さん、GJ!
おかげで、俺の名前がわかったよ!
皮ひもには金属でできたカードが付いていて、そこに俺の名前が記載されていた。
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カース=レジオン
特級 の資格を有する。
冒険者協会は、この者の身分を保証します。
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うん、読める。
俺の記憶がどこまで飛んでるのかわからないが、こうして言葉が分かり、文字が読めるだけでもまだ良かったと言える。
どこで覚えたのかとか、そういうことは覚えてないな。
「特級……?」
訝しげな視線、再び。
目を落とすと、身分証明証らしきそのカードには、確かに『特級』と書いてある。
特級、ね。
「すみません、特級の資格って何ですか?」
ヘラヘラと笑顔で質問する俺に、神官のお姉さんは渋い顔をして「頭痛がする」ポーズを取ったのだった。