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【第三夜】 3












 ちょっと情報を整理してみる。


 今朝方、ディアンナが刺されて倒れているのが発見された。見つかった場所は110号室。現在、彼女に意識はない。

 彼女が刺されていたのは、右の腹部。傷は浅いが出血が多いのでちょっと危険。とりあえず、意識はないが命はある。

 刺さっていた短剣は特に特徴のないもので、やや小さめで、女性が護身用に持ち歩くようなものかもしれない。

 さらに、部屋は密室。部屋の鍵は二つともディアンナが握っていた。ちなみに、彼女は発見された時、部屋の中にうつぶせで倒れていたそうだ。


 さらに言うなら、ディアンナは護身用に拳銃を持っていた。ローデヴェイクによると、彼女の銃の腕はかなりのもので、戦場では狙撃兵として登録されていたそうだ。すごい。すごいが、女性として何かが間違っているとしか思えない。

 まあ、それはともかく。ここまで上げてみると、ディアンナは自分で自分を刺したか、誰かに刺されたのだとしても助かるつもりはなかったのではないか、としか思えない。だから、こんなに状況がややこしいのだ。



 ちなみに、容疑者をあげておくと。まず一人目に刑事役でもあるローデヴェイク。彼はディアンナの兄と友人同士であり、ディアンナとも交友がある。その段階で何か彼女といさかいがあったのだとしたら、ディアンナを刺す理由になる。


 二人目にディアンナの義姉にあたるエレン。彼女の息子フィリベルトはディアンナの兄、クリスの忘れ形見であり、エレンが自分の息子に公爵位を、と思っても不思議ではない。まあ、一般論であり、エレンとディアンナは仲がよさそうに見えたけど。


 三人目にハウトスミット侯爵。ちなみに、彼の名はヘルブラントと言うらしい。ディアンナの元婚約者だ。彼女が公爵になったことで破談になったようだが、彼の方はまだディアンナに未練があるのかもしれない……。たびたび、声をかけられているようだから。


 四人目にハウトスミット侯爵夫人。ちなみに、名はヒルデ、年齢は十九歳で、びっくり、アメリアより年下らしい。ヘルブラントとは数か月前に結婚したばかりの新婚で、今回は新婚旅行も兼ねた視察に来ているらしい。もちろん、彼女としては夫が元婚約者にちょっかいをかけるのは面白くないだろう。もしかしたら最大の容疑者かもしれない。


 最後に忘れてはいけないのが、これはディアンナの自作自演である可能性。ただ、自殺するなら携帯していた拳銃を使えばよい話で、部屋を変えた意味も分からない。さらに言うなら、事件だったとしても、どうしてその拳銃を使って抵抗しなかったのか、など疑問が残る。



 ディアンナを含めると全部で容疑者は五人。ローデヴェイクを含めた全員に事情を聴き、部屋に戻ってきたのは夜になってからだった。今日は一等客室のレストランで観劇をしながら夕食を食べられるらしいが、そんな気力はないので二等客室のレストランに降りて夕食をとった。

 そして、部屋に戻ってきて現在に至る。ベッドに寝転んだアメリアは自分がメモした手帳を見る。バーレントは嫌がったが、アメリアは根性でついて行った。


「まだ考えているのか」

「あ、バーレント」


 シャワー室からバーレントが出てきた。ちなみに、アメリアは先にお風呂をいただいているのでもう寝る体勢である。アメリアはひょこっと体を起こす。

「だって、誰が犯人か気になるじゃないですか」

「小説じゃないんだぞ。乗客の中に凶悪犯がいるかもしれないんだ」

「……まあ、確かにディアンナ様が生きているから言えることではあるんですけど……」

 アメリアは素直に認めた。アメリアがこの探究心を発揮できるのは、死者が出ていないからだ。ディアンナの意識はないが、命には別状がないという。眼がさめれば完璧らしい。

 首にかけたタオルで髪を拭いていたバーレントはため息をついてベッドに腰掛けた。ベッドは一つしかないので、アメリアがいるベッドだ。どうでもいいが、バスローブからのぞく鎖骨が無駄に色気を放っている。アメリアはなんとなく視線をそらす。

「せっかくの旅行なのに、変なことに巻き込んでしまったな」

「あ、私は好きで巻き込まれているところがあるので、どうぞ気にせず」

「……アメリア。お前、結構いい性格だよな……」

「えへ?」

 こんな阿呆な会話ができるくらいには、アメリアとバーレントも気を許しあっている。アメリアはベッドに手をついて身を乗り出した。


「でも、みんなの証言を聞く限り、誰かが嘘をついているってことですよね?」


 今度はバーレントが少し視線をそらす。しかし、すぐに視線が戻ってきた。

「……まあ、そう言うことだな。それに、お前が未明に見た銀髪の人物、コーレイン公爵の可能性が高くなったな」

「あー……」

 そう言えばすっかり忘れていたが、アメリアは今朝……と言うか、夜中の三時ごろ、部屋を出て行く銀髪の人物を見たのだった。背の高い細身の姿だったが、後姿だったので、性別もわからない。ディアンナがかなりの長身であるので、彼女である可能性は高い。

 アメリアは移動して、バーレントの隣に座り直す。

「話したほうがよかったですかね?」

「話せば、お前が容疑者その五になるだけだ」

「……まあ、そうですよね、普通に考えて……」

 アメリアがディアンナらしき人物を見ていることを考えると、彼女らも容疑者になるのだ。つまり、一等客室の客人全員が関わっていることになる。

「……小説では、探偵役が犯人っていうのは王道ですけど……」

「これは小説ではないからな」

「ですよねぇ」

 アメリアは頬に手を当てて首をかしげる。


 容疑者その一ことローデヴェイクだ。彼はディアンナが刺された時間帯には、一人で寝ていたという。まあ、当然である。他の容疑者もそう言っていたし。時間帯的に寝ている方が普通だ。

 ディアンナとの関係を聞いてみれば、友人の妹と返ってきた。ディアンナの兄クリスは、ローデヴェイクの寄宿学校時代の友人らしい。アメリアにはよくわからないのだが、寄宿学校時代の友人と言うのは一生モノになるのだという。これはバーレントの証言も得ているので確かだろう。

 友人の妹、と言うには仲が良すぎるような気もしたが、そこはあまり深く考えすぎないことにする。必要になった時に考えればいい。


 ヘルブラントは、ディアンナを『元婚約者』と言った。まあ、これも当然である。本当に元婚約者同士なのだから。

 未練はあるか、の問いにあれば結婚していない、と言われた。まあ、それもそうか。なら、頻繁にディアンナに話しかけていたのは何故か、と聞くと、狙われているようだから、気を付けるように忠告していた、と言う。まあ、この辺りはディアンナが目覚めればわかる。


 次に、ヘルブラントの妻のヒルデ。彼女はディアンナが自分の夫の元婚約者だと知っていたが、特別交友はないと言っていた。一応お互い貴族なので、顔見知りではあるし会えば挨拶くらいはすると。夫が彼女にちょっかいをかけていることについては、面白くはないが、憎むほどでもないと言うドライな回答があった。


 最後にディアンナの義姉エレンであるが、やはりディアンナとの関係は良好らしい。もともと、ディアンナはフィリベルトが大きくなるまでの中継ぎとして爵位を預かっているだけなのだと言う。エレンとしてはそのまま公爵でもいい気がするのだが、まあ、それはフィリベルトが大きくなってから決めればいい。ディアンナとエレンの関係については、使用人のイレーナと言う女性からも証言を得ているので、本当に仲が良いようだ。


 アメリアはばたんと後ろに倒れる。なんだかよくわからなくなってきた。

「これ、ディアンナ様が目を覚ますのを待った方が早い気がします」

「それは否定できないな」

 バーレントが寝転んだアメリアを見下ろす。

「もともと、傷害事件だ。殺人事件ではない。ここまで大事になったのは、被害者が公爵であるためだ。これが一般人だったら、運が悪かったね、で済まされているぞ」

「た、確かに……」

 指摘されてアメリアは慄然とする。確かに、これで刺されたのがアメリアとかだったら、『運がなかったね』で済まされる可能性が高い。おそらく、刃物を持った凶悪犯がうろついていると言うことで捜査はされたと思うが……うーん。


 ディアンナと言いローデヴェイクと言い、拳銃を持ち込んでいるやつが多いのだから、ナイフくらいで……と言う気もするのは否めない。いや、ナイフも十分凶悪だけど。

「コーレイン公爵を刺したのが誰かはともかく、そう言った犯人がうろつているのは危険だからな」

「わかってます」

 不用意に出歩くな、と言うことだ。アメリアは長身であるが、身体機能的には強いわけではない。


 元従軍医であるバーレントは、一応軍事訓練も受けているらしく、彼の側にいる方が安全だ。さすがに銃は持っていないようなので、相手が銃を持っているようならあきらめるしかないけど。

 アメリアは寝転んだままのびをした。バーレントに「眠いならちゃんと横になれ」と指摘される。アメリアはいそいそと移動し、枕に頭を乗せた。その状態でぽつりとつぶやく。


「夢ならいいのに」


 その呟きに、バーレントは「まったくだな」と同意してくれた。















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


わかっていたけれど、私、ミステリー苦手かもしれない。読むのは好きなんですけどね……。


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