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【第二夜】 3

クリスの死因を変更です。(ここにこんなことを書いていいのだろうか……)












 戻ってきたコーレイン公爵を見て、エレンが首をかしげた。

「あら、ディア。もういいの?」

「しつこいんだよねぇ、あの男。よほど突き落としてやろうかと思ったよ」

 奥さんが悲しむからやらなかったけど、とコーレイン公爵はうそぶく。というか、この高さから人間を海面に落としたら、死ぬのではなかろうか。


「突き落とすのはやりすぎだけど、確かにしつこいわね、彼。復縁を迫ってるわけでもないでしょう?」


 他人の前でする話でもないのだが、何故かフィリベルトとバーレントが一緒に遊んでいるので、離れようにも離れられない……。

 柵に寄りかかり、コーレイン公爵は腕を組む。

「復縁ってほど仲も良くなかったけどね。あれと結婚したくなくて、私は軍人になったわけだし」

「あ、コーレイン公爵、軍人だったんですか?」

 一応旦那であるバーレントが従軍医だったので、少し関心を持ったのだ。

「二十歳の時に志願してね。結局、二年しかいなかったけど」

 と言うことは、二十二歳で退役したのか。頭の中で計算していると、こんなことを言われた。

「あと、呼びにくかったら名前で呼んでくれてもいいよ」

 ディアと呼ぶ人は多いしね、と彼女。公爵様を名前で呼んでいいのか? いや、でも、コーレイン公爵って実は呼びにくいから名前で呼ぼう。

「じゃあ、遠慮なく」

 アメリアが笑うと、コーレイン公爵改めディアンナとエレンも笑った。何となくアメリアがバーレントを振り返ると、彼は何故かフィリベルトを抱き上げていた。エレンも気づいてバーレントに駆け寄る。


「まあっ。バーレントさん、すみません」

「いえ。これくらいなら」

「フィル。私が抱っこしてあげるからおいで」

「叔母上は安定しなくて怖いです」

「悪かったね、安定しなくて!」


 そう言いながらもディアンナはバーレントからフィリベルトを受け取った。バーレントはほっとした様子だ。子供とはいえ、公爵家の子供だ。もし怪我をさせたらとんでもないことになる。

 若干疲れた様子を見せるバーレントを見て、アメリアはディアンナとエレンに言った。

「すみません。おなかがすいたので、お暇させていただきます。ディアンナ様、エレン様、またお話ししてください。フィリベルト君も、バイバイ」

「バイバーイ」

 十歳の大人びた子だとわかっているが、手を振ってくれる姿が可愛かった。エレンとディアンナの兄の子なら、顔立ちが整っているに決まっているが。しかも、よく似たディアンナに抱っこされていると言うのもポイントが高い。


「フィリベルト君、かわいかったですね」


 船内を歩きながら、アメリアはにこにこと言った。一方のバーレントはお疲れ気味である。

「見た目はな。だが、無駄にいろんなことを聞かれたぞ」

「私は、バーレントが普通に子供の相手をしていることにびっくりしました」

 子供嫌いだと思ってました、と言ってのけると、バーレントは「別に好きでもないな」と言う。

「だが、子供を怖がらせる趣味もない」

 その答えが、バーレントらしいと思った。アメリアはくすくすと笑う。そんなアメリアを見て、バーレントは言った。


「お前が自然に笑う姿を初めて見た気がする」


 アメリアはキョトンとしたが、すぐに言った。

「まあ、お見合い結婚ですぐに仲良くなれ、っていう方が無理ですよねぇ」

「確かにな」

 バーレントも同意してくれた。何よりである。

 しかし、アメリアは続いた言葉に驚くことになる。


「だが、アメリアといるのは居心地がいい」

「……」


 とっさに反応が返せなかったが、仕方がないだろう。そんなことを言われるなんて、思わなかった。素早く返事を考える。


「……まあ、私もバーレントといるのは結構楽しいです」


 アメリアは自分を馬鹿ではないと思っているが、頭がいいとは思っていない。バーレントは医者になるだけあって頭がよく、博識だ。そんな彼と話しているのは素直に楽しい。

 要するに、お見合いであったとはいえ、良縁であったと言うことだ。アメリアとの縁談を断らなかったバーレントにひそかに感謝をささげておく。


 愛し合うことはなくとも、彼となら穏やかに暮らせそうだ。


「そう言えば、ちょっと思ったことがあるのでした」

 部屋に戻りもう一度飲み物を注文したあと、アメリアは言った。バーレントは「なんだ」と聞いてくる。

「コーレイン公爵……ディアンナ様は、二年前まで軍人だったそうです。面識ありますか?」

 バーレントは少し考える様子を見せた。

「……いや。やはり、軍ではあったことがないな。人が多いからな」

「それもそうですね」

 納得してうなずいたアメリアだが、ふと思った。

「じゃあ、どうしてディアンナさんを知ってたんですか?」

 あれだけ目立つ人ならば、一方的に知っているということもありうるが、バーレントは噂話にあまり興味がなさそうだから、少し不思議に思ったのだ。

 ともすれば嫉妬ともとられそうだが、バーレントはまじめに答えてくれた。


「いや。元公爵夫人の話を聞いて思い出したことがある」


 一瞬、元公爵夫人が誰を示すのかわからなかったが、すぐにエレンのことだと気が付いた。

「前コーレイン公爵は、クイーン・アレクサンドラで射殺されたんだ」

「……」

 沈黙を返したアメリアは、きっと悪くない。

「……ええっと。射殺? 殺されたってことですか?」

「ああ。二年前だな。結構ニュースになったが、知らないか?」

 アメリアは首を左右に振った。二年前と言えば、アメリアが絵本製作に夢中になっていたころだ。絶賛引きこもり生活をしていた。

 わからなかったので、アメリアは素直にそう答えた。バーレントに少し呆れた顔をされた。

「まあ、俺達にはあまり関係のない話ではあるからな」

「そ、そうですね」

 アメリアは同意を示しながら、バーレントの言葉に少しの違和感を覚える。何故違和感があったのか、わからないけど。


 二年前、クイーン・ベアトリクス号の姉妹船であるクイーン・アレクサンドラ号で殺人事件が起きた。


 被害者は、クリス・コーレイン。当時のコーレイン公爵にしてディアンナの実の兄。そして、エレンの夫であり、フィリベルトの父だ。

 見つかったときにはすでに息はなく、頭を撃ち抜かれ、恐らく即死だったのだろうと思われる。

 彼は、エレンとフィリベルト共に旅行に来ていたらしい。宮廷の仕事に休みをもらい、休日を満喫していた時の悲劇であった。エレンとフィリベルトは、夫、もしくは父の死を間近で感じたことになる。

「そんな……」

 確かに、エレンは言っていた。


『二年前に夫が亡くなったんだけど、最後に一緒に出かけたのがこれと同じタイプのクルーズ船だったから』


 あの話は、事実であったわけだ。


「この時の犯人はまだ捕まっていないんだが……容疑者の一人に、今のコーレイン公爵の名が挙がっていた」

「……ええ、まあ、想像の範囲内ですよね」

 貴族間の爵位争いのお家騒動は結構ゴシップニュースになる。だから、この話を知らないアメリアも驚かなかった。

 ディアンナとクリスは、二人きりの兄弟だった。爵位を継いだクリスがいなくなれば、ディアンナに爵位がめぐってくる。クリスの息子はまだ幼く、爵位は継げない。

 女性が爵位を中継ぎとして継承することはよくある話だ。おそらく、ディアンナの場合も同じなのだろう。フィリベルトが大きくなり、公爵として恥ずかしくないほどになったら、彼女は甥に爵位を譲るのだろう。


 まあ、一般的に見たらそう言うことだ。ただ、クリスが亡くなったことでディアンナに爵位がめぐってきたことも事実であるわけで。つまり、ディアンナが爵位を欲したがために兄を殺したのではないか、と言うことだ。

 しかし、アメリアの直感では、ディアンナは犯人ではないと思う。そう言うと、バーレントは「わからないな」と言った。

「彼女は退役軍人だ。軍人と言うのは、言ってしまえば人殺しのエキスパートだからな」

「……」

 確かに。否定できない……。黙り込んだアメリアに、バーレントは「まあ」と言葉をつづけた。

「自分の夫を殺した義理の妹と、元公爵夫人が仲良くできると言うのも腑に落ちないからな」

「ああ、それはできますよ」

 こちらはアメリアが説明できる範囲だ。


「女は怖いですよぉ。復讐の為なら、たとえ仇が相手でもニコニコ笑ってますからね」


 ドレスの下は常に修羅場です、と言い添えておく。バーレントは身震いした。

「世の中の女性は怖いな」

「そうですよ」

「そう言うことを笑顔で言うアメリアも怖いな」

「ええっ」

 まさかの怖がられてしまった。バーレントの真顔も相当迫力があると思うのだが。まあ、自分が怖い顔をしているのと怖い、と思うのは別か。


「そういえば、ドレスで思い出したが、今夜、ホールでコンサートがあるらしいが、行くか?」

「コンサート?」


 なんと、この客船にはホールがあり、コンサートまで行われるらしい。そう言えば、楽団が乗り込んでいるとは聞いていた。

「……せっかくだし、行きたい、ですかね」

 コンサートなんて、めったに行く機会はないだろう。せっかく乗船している客船の中でやるのだから、行ってみよう、と思ったわけだ。

「あ、でも、ドレスで思い出したってことは、ドレスコードがある?」

「ああ。女性はドレス参加だな」

「……そうですよねぇ」

 アメリアは苦笑した。だが、言ったことを撤回することはなかった。














ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


基本的に、この話に出てくる登場人物全員が怪しい。


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