表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

【第六夜】















 クイーン・ベアトリクス号の姉妹船、クイーン・アレクサンドラ号は二年前に航海を終えている。理由は、当時のコーレイン公爵クリスが船内で射殺されたからだ。

 アメリアは船内図書館をあさり、クイーン・アレクサンドラ号の資料を借りてきていた。客室に引きこもってひたすら資料を読んでいる。

 それに付き合ってか、バーレントも部屋に引きこもっていた。アメリアが集めてきた資料を勝手に読んでいる。


 クイーン・アレクサンドラ号が就航したのは今から七年前。それから五年間後悔し、二年前の事件を期に航海終了している。それと入れ替わるように、クイーン・ベアトリクス号が就航している。

 前コーレイン公爵クリスの事件についての資料もいくつかあった。さすがに現場の写真などはないが、だいたいの状況がわかる資料があった。

 それによると、前コーレイン公爵クリスは、頭を撃ち抜かれて死んでいたらしい。第一発見者は、今回のディアンナの時と同じで清掃スタッフ。見つけた時、すでに遺体は冷たくなっていたそうだ。

 頭を撃たれて即死だったようだが、出血量は多かったらしい。その異常な状況に、発見者である清掃スタッフは精神異常を起こしてしまったらしい。もちろん、そのままやめてしまったそうだ。

 発見された時刻は早朝で、甲板で息絶えていたらしい。死後六時間は経過していたようだ。


「……妙だな」


 一緒に資料を読んでいたバーレントが口を開いた。アメリアは顔をあげて首をかしげた。

「妙、とは?」

「この資料を読む限り、頭を撃たれたにしては異常な出血量だ」

「そうなんですか?」

「即死だったんなら、すぐに流血も止まるはずだ」

「……」

 忘れていたが、バーレントは医者だった。よくわからないが、彼がそう言うのならそうなのだろう。

「よくわからないが、同じ現場で二人、殺されたのかもしれないな」

「……」

 考え込むようにバーレントが言った。アメリアは頭が混乱してきた。

「ディアンナ様が刺された時も、血だまりができていたって言ってましたけど」

「コーレイン公爵は生きていたし、刺されたのは腹だ。それくらいの出血量はあっても不思議ではない。生きているのは若干不思議だが」

「……」


 頼むから、勝手に殺さないでほしかった。何故か焦るアメリアは、ふと思った。


「前コーレイン公爵と合わせて二人殺された、と考えるのは早計じゃないですか? ディアンナ様が生きているなら、もう一人も生きている可能性があります」

「……なるほど」

 バーレントが感心したようにうなずいた。とはいえ、何かがわかったわけではない。もともと、前コーレイン公爵の死は謎の多い事件であり、他殺であること以外わかっていない。

「……エレン様に聞いてみましょうか?」

「いや、やめた方がいいと思うが」

 アメリアのやけっぱちな言葉にバーレントがツッコミを入れた。そりゃそうだ。どこに、死んだ夫のことを話したい妻がいるのか。何年もたっているのならともかく、まだ二年。しかも、犯人が捕まっていない殺人事件なのだ。

「むしろ、コーレイン公爵に話を聞きたいところだが」

「行方不明ですもんね」

 結局、そこに戻る。明らかにキーパーソンであるディアンナが姿をくらましたのは痛い。

「……クイーン・ベアトリクス号は、クイーン・アレクサンドラ号の姉妹船ですよね」

「まあ、そうだな」

 アメリアはバーレントの方に身を乗り出しながら言った。


「もしかしたら、クイーン・アレクサンドラ号の乗務員クルーが、この船にいるかもしれません」


 同型の船で、入れ替わるように就航したクイーン・ベアトリクス号。クイーン・アレクサンドラ号になれた乗務員が乗船していても不思議ではない、とアメリアは考えたのだ。

 少し考えてから、バーレントはうなずいた。


「よし。探してみるか」


 なんだかんだで、バーレントもアメリアに毒されつつある。
















 そう言って、初めに向かったのはなぜか甲板だった。前コーレイン公爵クリスが射殺されていた、という場所である。もちろん、船が違うので実際にこの場所で前コーレイン公爵が殺されたわけではない。


「早朝に発見されて、死後六時間ってことは、深夜に殺されたってことですよねぇ。目撃者、いなさそうですね」

「というか、目撃者がいたらもう犯人が捕まっている」

「そりゃそうですね」


 アメリアはバーレントのツッコミにうなずき、ぐっと伸びをした。潮風が気持ちいい。今日は遠くに陸地が見えた。ふらふらと甲板の手すりに近づき、陸地を眺めた。

「次の話は、船を舞台にしようかなぁ」

「それ、童話になるのか」

「……ご、豪華客船にしなければ、なんとか」

 確かに、クイーン・ベアトリクス号のような豪華客船が舞台だと、それは大人向けの小説になってしまう。

「……ホラー系の童話はどうでしょう」

「童話ってことは、基本的に子供が対象だろう。読まないだろう、普通」

「……ですよねー」

 大人も読める童話などもあるが、数は少ない。今のところ、アメリアが書いているのは子供を対象とした童話である。普通の冒険ものとか、そう言うものが多い。


 それから何人かの乗務員に声をかけてみたが、あまり収穫はなかった。二年前にクイーン・アレクサンドラ号に乗っていた人も、口をつぐむ人が多い。まあ、殺人事件があった船の話など、したい人は少ないだろう。したい人もいるかもしれないが、乗務員はきっと、事情聴収をされているからいい思い出はないと思う。

 だが、まったく収穫がなかったわけでもない。だれだれがクイーン・アレクサンドラ号に乗っていたらしい、とかそう言った情報をいくつか得られた。

「でも、乗ってた人がわかっても話してくれなけりゃ一緒ですよね」

「そうだな」

 アメリアとバーレントは会話をしつつ客室に戻るために廊下を歩いていた。部屋に入ろうかと言うその時、バーレントが顔をあげた。

「どうしたんですか?」

「いや、銃声がしなかったか?」

「何も聞こえなかったと、思いますけど」

 アメリアは首をかしげた。しかし、ルームキーを持っているバーレントが部屋の鍵を開けずに歩き出してしまったので、仕方なくついて行く。


 行きついたのはコンサートホールの廊下だった。何故か人だかりができている。

「アメリアはここに居ろ」

「えと、はい」

 アメリアがうなずいたのを見て、バーレントが人垣をかき分けていく。アメリアは背伸びして様子をうかがった。見えなかったけど。

「どうしたんだ?」

「なんか人が死んでるんだってよ!」

「ええっ? 誰?」

「女の人。名前まではわかんね」

 こそこそと話をする人々から、アメリアは誰かが亡くなっていることを知った。そこに、ローデヴェイクがやってくる。

「申し訳ない、ちょっと通してくれ」

「みなさん! 離れてください! ここは立ち入り禁止にします!」

 船内警備兵が野次馬を散らしにかかる。人がいなくなると、アメリアにも倒れている女性が見えた。金髪の女性だ。

「アメリア! 先に部屋に戻っていろ」

 女性の側に膝をついていたバーレントが鋭い声で言った。アメリアはうなずきかけて、それから言った。

「あ……でも、鍵……」

 バーレントがアメリアに向かって鍵を投げてよこした。遠回しに帰れ、と言われていることがわかる。アメリアは言った。

「じゃあ、先に戻っています」

 その声が思ったより震えていて、アメリアは自分に驚いた。
















 客室に戻り、アメリアは紙に情報を書き込んで整理する。昔からのアメリアのくせだ。


 コーレイン公爵が刺されただけで飽き足らず、今回は人が死んだ。バーレントが戻ってきたら、もう少し詳しいことがわかるだろうか。

 客室にノックがあった。アメリアははーいと、扉の方に向かう。

「誰ですかー?」

「俺だ」

「俺俺詐欺?」

「……バーレントだ」

 わかっていたが一応尋ねてから扉を開けた。そこには、若干疲れた表情のバーレントがいた。

「相手を確かめるのはいい判断だが、やられる方はすこし腹が立つな」

「なら、最初から名乗ってください」

「御尤もだな」

 バーレントが客室に入り、鍵をかけた。ディアンナだけではなく、もう一人被害者が、しかも死者が出た。気を付けておくに越したことはない。

「……亡くなったの、誰だったんですか?」

「ユリア・ヤンセン。この船の歌姫だな。コンサートに行ったとき、歌ってたぞ」

 さらっとバーレントが答えてくれて驚いた。ついでに、言っておく。


「私、コンサートの時寝てましたもん」


 すると、バーレントが苦笑した。


「そうだったな」


 すねたような表情をするアメリアの髪にバーレントの手が優しく触れた。アメリアはくすぐったくて身をよじる。

「な、何するんですか」

「いや、かわいかったから」

「……」

 なんか前にもあったようなやり取りである。アメリアは気を取り直して尋ねる。

「それで、どうして歌姫様が殺されたんですか?」

「さあな。動機はさっぱりだ」

「ディアンナ様を刺した人と、同じ人がやったんだと思います?」

「……どうだろうな」

 バーレントはそう言いながら顎に触れる。

「ただ、今回殺害に使われたのは拳銃だった。明日、一応死亡解剖にかけてみるが」

「って、バーレントもするんですか?」

「頼まれたからな」

「……」

 アメリアは不意に不安になってバーレントの手を握った。


「振り回した私が言うのもどうかと思うんですけど、あまり危ないことはしないでくださいね。バーレントがいなくなったら悲しいですから」


 お見合い結婚であったが、そう思うくらいには仲良くなった。表情はないが、彼が優しい人であることはわかるし、なんだかんだでアメリアのしたいようにさせてくれて感謝している。一生に一度の結婚なら、彼で良かったと思える。

 基本的に表情のないバーレントだが、目を見開いたのがわかった。アメリアに握られていない方の手がアメリアの頬に触れ、その端正な顔が近づいてきて、そして。



 バーレントはアメリアに口づけた。














ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


もう一度言う。ラブコメは後でやれ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ