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【第五夜】 1














 翌日の朝、バーレントにたたき起こされたアメリアはとんでもないことを言われた。


「は? ディアンナ様が病室からいなくなった?」


 何それ、と言わんばかりにアメリアは寝ぼけた声で言った。

「……自分で出て行ったんじゃないですか」

「そうかもしれないが……行方を知らないかと聞かれた。知らないよな?」

「知りません」

 そう答えると、バーレントはほっとした様子でそうか、と答えた。何だろう。疑われていたのだろうか。

「ならいい。とりあえず、起きて着替えろ」

「はぁい」

 アメリアは身を起こし、今日着る服を選び始めた。バーレントから「バスルームに行って着替えろ」と指摘される。別にここで着替えるつもりはなかったが、今更アメリアはバーレントの前で着替えることに恥じらいを覚えないかもしれない。だって何もされないだろうし。


 とりあえず着替え、バーレント共にレストランへ朝食に向かう。ざっと見渡すが、エレンとフィリベルトは来ていなかった。代わりに、別の人間に声をかけられた。

「おはよう、バーレント。奥さん」

 お、奥さん……。耳慣れない言葉にアメリアは苦笑いを浮かべた。こんなことをさらりと言うのは、ローデヴェイクである。

「おはようございます。大佐」

「おはようございます」

 バーレントとアメリアが笑みを浮かべてあいさつを返す。ローデヴェイクに席を勧められたので、遠慮なく座る。相変わらずと言うかやっぱりと言うか、バーレントは遠慮なく尋ねた。

「コーレイン公爵がいなくなったらしいですね」

「君たちも聞かれたか。まあ、そりゃそうだよな」

 そう言ってローデヴェイクはコーヒーを一口飲む。

「俺も、あれの行方は知らん」

 ついにアレ扱いになっている。船内にはいくらでも隠れる場所があるが、誰かがかくまっていると考えるのが自然だろう。ローデヴェイクの申告によれば、彼はディアンナをかくまっていないと言うことになる。まあ、嘘をついている可能性もあるけど。


「まあ、自分でいなくなった可能性も高いな」

「自分を刺した人間に、復讐するため、ですか」


 バーレントが嫌なことを聞く。これでこそバーレントとこの頃思うが、やっぱり率直すぎるとも思う。


「……やらないとは言い切れんな」


 ローデヴェイクが肩をすくめた。アメリアは困り顔の彼を見て、朝食のパンケーキを食べながら首をかしげる。


「レーンデルス伯爵はディアンナさんと仲が良かったんですか?」


 コンサートの時、仲よさそうに話しているのを見た。正直、友人の妹、と言うだけにしては仲がよ過ぎる気がする。もしかしたら、軍関係で仲が良い可能性も高いけど。

「女性は鋭いな」

 ローデヴェイクが足を組み直す。アメリアとバーレントも何となく居住まいを正した。

「俺はディアを愛しているからな」

「……」

「……」

 唐突かつ衝撃のカミングアウトに、アメリアとバーレントは目を見合わせた。

「……えーっと。どう反応すればいいんでしょう」

 アメリアが尋ねた。バーレントが何か言うのは不可能だろうと思った。話題を振った自分のせい、とばかりにアメリアは言った。

「二人の反応で正解だと思うぞ。言うと、引かれるからなぁ。初めて言ったけど」

「……」

 ホントに何なの、この人。
















「い、いろいろとびっくりしました」

「俺もだ」


 アメリアもバーレントも何となくぐったりしながら客室に戻ってきた。一応、ローデヴェイクにいろいろと話を聞いたのだが、どうやらディアンナの方もローデヴェイクに特別な思いを抱いていたと思われる。まあ、この辺りはディアンナ本人に確かめないと、正確にはわからないのだが。ちなみに、この話はアメリアが積極的に聞いた。

 片や伯爵。片や婚約者がいる女。伯爵は軍人でもあり、女はそれを追いかけるように軍に入った。しかし、女の兄公爵がなくなり、女はやむなく爵位を継いだ。通常、爵位もち同士が結婚することはほとんどない。


 まあ、女性の爵位もちが珍しいからでもあるのだが。特に、女性公爵は今のところ、ディアンナしか例を知らない。

 ローデヴェイクとディアンナが秘密の関係であったとすれば、この傷害事件はちょっと様相を変えてくる。アメリアもバーレントも、ローデヴェイクが手に入らないディアンナを刺したのではないか、と考えた。もしくは、ままならない現実を嘆いたディアンナが自殺しようとした可能性もある、と。

 しかし、やはり問題がある。ディアンナの傷は浅く、軍人であるローデヴェイクが刺したとは考えにくいのだ。ついでに言うなら、戦闘のプロでもある彼なら、腹を刺さずに急所を狙うはずだ。彼の力なら、一突きで息絶えさせることができるだろう。


 そして、何度も言うが自殺は考えにくい。自殺するなら、何故銃を使わなかったのか、と言う話になる。


「……俺たちは、前提から間違っていたのかもしれないな」

 バーレントがソファに身を預けながら言った。その隣に座ったアメリアが「どう言うことですか」と尋ねると、彼は言った。

「はじめから、犯人はコーレイン公爵を殺すつもりはなかったのかもしれない」

「い、いまいちピンとこないんですけど……」

 アメリアが首をかしげると、バーレントも腕を組んで少し考えるようなそぶりを見せた。

「これが、犯人とコーレイン公爵の間で計画されたことだとしたら? コーレイン公爵が刺されて、最も驚くのは誰だろうか」

「……刺された本人じゃないんですか?」

「いや、それはそうだが」

 アメリアの意見にバーレントは微妙な表情で答えた。普通、刺されたら一番驚くのは刺された本人だ。

「……駄目だ。お前と話していたら、よくわからなくなってきた……」

「ええっ。すごい責任転嫁なんですけど」

 アメリアが半眼でそう言うと、バーレントは組んでいた腕をほどいた。少し身を乗り出してくる。


「アメリアの意見は鋭いからな。参考になる。だから、お前が違うと言うなら違うのだろうな」


 それは直感と言うことだろうか。アメリアは、勘が鋭いと言うことか?

 思わず考え込むアメリアの頭に、バーレントはぽん、と手を乗せた。よしよし、というようになでる。

「やはり、作家になるだけはあるな。俺とは発想が違う」

 そう言って、彼はアメリアの金髪を指で少しすくい、口づけた。アメリアが目を見開き、そして赤くなる。


「な、なななな、なっ。何してるんですか!?」

「わかりやすい動揺の仕方だな」

「動揺もしますよ!」


 これまでそんなそぶり見せなかったのに! アメリアとバーレントが結婚したのは、互いに嫌悪感は抱かなかったことと、まあこの人ならいいかな、と思った妥協だ。だから、初夜と言うものもスルーされているし、この狭い船室で同じベッドで眠っていても、バーレントに何かされことなんてない。むしろ、毎日起こされているのでどうにかした方がいいだろうか、と思っているくらいだ。

 バーレントが軽く笑い声をあげた。そんなに、動揺しているアメリアが面白いのだろうか。

「そんなにすねないでくれ。可愛いだけだぞ」

「無理にそんなことを言っていただかなくても結構です」

 むくれてアメリアは顔を逸らした。だが、顎をつかまれて無理やりバーレントの方を向かされる。髪に口づけられた時よりもドキドキした。

 バーレントの整った顔が近づいてくる。アメリアはぎゅっと目を閉じた。頬に軽くキスされた。片目だけ開けてバーレントの方を見た。相変わらず彼は無表情だった。

「……何するんですか」

「いや。かわいかったので」

 アメリアは両目を見開く。結婚式のときだって、形式的にキスをされたが、その時とは何となく、違う気がした。何が、と言われても困るけれども。


 アメリアは自分が可愛くない性格をしていることは自覚している。かわいげがあれば、お見合い結婚なんてしていないはずだ。バーレントのように美形! と言い張れるほどではないが、そこそこ顔立ちは整っていると思う。だから、これで性格が普通であればそれなりにモテたはずなのだ。

 しかし、現実は悲しいかな。アメリアは好奇心たっぷりの残念な性格。社交的かと思えばそうでもなく、作家活動をしているので半分引きこもり。自分でもかわいくないと思う。

「……可愛かったら私、たぶん、恋愛結婚していると思います」

「まあ、俺もだろうな。もう少し社交的なら、見合いなどしていないな」

「似た者同士ってことですか」

「そうだな」

 アメリアもバーレントも社交的な方ではない。そんな二人だから、波長が合ってしまった可能性があるが、そんな二人で結婚しても大丈夫なのだろうか、と思う。しかし、もう結婚してしまったのだから仕方がない。


「仕方ないですから、私の好奇心を満たすために、この事件の謎解きをしてください」

「なんで他力本願なんだ……まあ、俺も気になるからやるが」


 バーレントはやっとアメリアの顎から指を放した。それから、言った。

「ならまず、今夜のパーティーに出席するから、ドレスを見つくろっておけ」

「……はい?」

 何故パーティー? 口には出さなかったが、疑問が顔に出ていたのだろう。バーレントは言った。

「ああいった場では、人の口は軽くなるからな。情報を仕入れるにはもってこいの場所だ」

「なるほど。先に申告しておきますが、私はダンスは踊れません」

 かろうじてステップは踏めるかもしれないが、優雅に踊ることは不可能だ。

 アメリアの申告に、バーレントは「大丈夫だ」とうなずいた。


「俺も踊れないからな」


 まさかの、二人とも踊れなかった。まあ、これなら無理に踊ることもないだろう。

「この船が出向して五日が経つな。二日前に起きた事件は、表向き伏せられているようだが、閉鎖空間である船内ではすぐに広まるだろうな。娯楽の少ない船だ。こういった噂話に、人間はすぐに飛び着く」

「……」

 まるで観察者のような口調で言うバーレントが、アメリアはちょっと怖かった。

「真実は、どんなものだろうな?」

「……」

 それは、アメリアもちょっと気になる。


















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


どうしたんだろう。バーレントの性格がよくわからない。


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