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【第一夜】

新連載です。よろしくお願いします。

すでにタイトル、ジャンル詐欺の予感。










 アメリア・アッセル・ブルンベルヘンは新婚であった。この豪華客船、クイーン・ベアトリクス号に乗り込むのも、これから新婚旅行に出かけるためだった。


 アメリアは先日結婚した。しかし、それは恋愛結婚ではなく、いわゆるお見合い結婚だ。一種の政略結婚と言っていいだろう。

 アメリアは一般的な中流階級の家に育ったが、幼いころから変わった子だった。書物が好きで、いつでも本を携えていた。口下手だとか、人見知りだとか、そう言うことはないのだが、あまり人と交流をもたない子だった。


 そんなアメリアは童話作家だ。寄宿学校に通っている時代に応募した作品が、たまたま賞を取った。それ以降、彼女は細々と作家をしている。

 だから、結婚できなくてもいいかなーと思っていた。最近は職業婦人などもいるが、アメリアは仕事に生きるのもいいかもしれない、と考えていたのだ。

 だが、妹が結婚することになり、姉が結婚していないのはいかがなものか、と両親も思っていたようだ。ちなみに、妹は恋愛結婚であるが、両親は友人の少ないアメリアに恋愛を求めなかった。


 代わりに持ってきたのがお見合いである。相手はつい半年前まで従軍していたという医師。つまり、従軍医だ。三年間従軍したと言うし、アメリアはびっくりすると同時に、会ってみたら色男であった彼がいまだ未婚であったことに納得したのだ。三年も従軍していたのなら、結婚していなくても不思議はない。


 三日前、アメリアの夫となったバーレント・ブルンベルヘンは唖然としてしまうほどの美形だった。栗毛にまじめそうな紫の瞳を有する涼やかな目元。パーツの配置も絶妙で、彼を美形と言わずに誰を美形と言うのか、と言った感じだ。女性にしてはやや背が高めであるアメリアが見上げなければならないほどの長身でもある。

 アメリアも決して不美人ではないが、こんな美形の隣にいるのが自分でいいのか、と思ったのだが、縁談がまとまって結婚してしまったのだから仕方がない。アメリアは相手から断られるだろうと思って何もしなかったのだが、それが裏目に出た。バーレントの方からも断らなかったのだ。


『いいんですか? このままだと、私と結婚しちゃいますよ?』


 結婚式を挙げる前に、そう尋ねたのだが、バーレントは構わない、と答えた。


『君は、私が今まであった女性の中で一番まともで好ましい』


 と言う理由によって、彼はアメリアを伴侶に選んだようだ。まあ、アメリアからも否定する理由がなかったので、まあいいか、と思った。

 たぶん、バーレントが言う好ましい、とは、化粧っ気がないことなのではないかと思われる。アメリアは金髪碧眼のそこそこ整っている顔立ちの女性だ。背丈はあるが、体つきにメリハリはほとんどない。着飾ることに重要性を感じず、化粧は薄め。お見合いの時も、目元に少し色を入れ、口紅を差しただけで行った。

 結婚式の時、当然ながら着飾り、化粧もばっちり決めたのだが、彼女を見たバーレントの一言が思い返せばひどい。


『いつもの方がいいな』


 つまり、化粧の薄い方がいいと言うことだ。自分的にはきれいにできていたと思うので、ちょっとショックである。


 まあそれはいい。夫の性癖を暴露したところで、結婚を取り消すつもりはない。だって面倒くさいからね。そう。アメリアは基本的にこういう人間なのだ。

 汽笛を鳴らし、クイーン・ベアトリクス号は出航した。甲板で出航を待っていたアメリアは、風に揺れる帽子を押さえ、斜め後ろにいる夫を振り返った。

「出航しましたね」

「そうだな。これから十日間、よろしく頼む」

「こちらこそ、お願いします」

 これから十日間、同じ船室で過ごすのだ。気を付けねば。アメリアはひそかに気合を入れる。


 新婚旅行で乗った客船、クイーン・ベアトリクス号。この国最大級の豪華客船であるこの船は、いくつかの寄港地を経由しつつ、二人の目的地である都市にたどり着く予定だ。その期間は十日。

 心地よい潮風に、アメリアはぐっと伸びをした。その時、彼女がかぶっていた帽子が風にとばされた。


「あっ」


 バーレントが帽子をつかもうとしてくれるが、つかみ損ねた。このままでは海に落ちてしまう。あの帽子は、アメリアが持っている中で一番お気に入りのものだ。思わず追いかける。

「アメリア!」

 甲板を走る妻に、バーレントは驚きの声を上げる。元からインドア派のアメリアはすぐに息を切らして立ち止った。その肩に追ってきたバーレントが手を置く。

「新しいものを買ってやるから、あまり落ち込むな」

「……でも、お気に入りで」

「だからと言って、それでお前が怪我をしたら意味がないからな」

 医者だからだろうか。こういうところは、とても優しい。親切、と言う方が正しいのか? でも、帽子は本当にお気に入りだったので残念だ。


「これ、あなたの?」


 落とした視界の中に、とばされたはずの帽子が映って、アメリアは驚いて目をあげた。すると、そこには微笑む美しい人がいた。

「私の所に飛んできたんだけど」

「あ……すみません! ありがとうございます」

 アメリアは帽子を受け取って抱きしめる。改めて見ると、その人は本当に美しかった。


 青みがかった銀髪が、幻想的な雰囲気を醸し出している。淡い緑の瞳は怜悧で、一見知的な青年に見える。しかし、その人は男装した女性だった。だって胸があるし、男性にしては声が高く、顔も女性的だ。銀縁眼鏡がよく似合っており、背丈は高い。女性の中で長身に部類されるアメリアよりも人差し指一本分ほど背が高い。


「すみません。ありがとうございます」


 バーレントも女性に礼を言った。女性は笑って首を振る。

「いや。たまたま飛んできただけだから。二人は恋人?」

 アメリアとバーレントを見比べて、彼女が言う。バーレントは生真面目に「先ごろ結婚しました」と言う。あら、と女性。

「おめでとう。では、新婚旅行と言うことか」

「はい」

「せっかくの旅行だし、楽しみなよ」

「そのつもりです」

 バーレントがうなずく。彼女はアメリアに向かって手を振り、船内に姿を消した。アメリアはその後ろ姿を見送り、あっと声をあげた。

「お名前、聞いておけばよかったですね」

「どうだろうな。たぶん、聞かなくても彼女の正体はわかる」

「本当ですか?」

 帽子を抱きしめたまま、アメリアはバーレントを見上げる。彼はまじめな表情のまま言った。


「おそらく、コーレイン女公爵だ」

「コーレイン女公爵? 確かに女性の爵位もちは珍しいですが、よくわかりますね?」

「有名だからな。銀の髪をした知的な美人と言うことで」

「……へえ」


 アメリアは思わず気のない相槌を打つ。そう言う噂が耳に入るとは、バーレントも結構情報収集にいそしんでいるのかもしれない。

「相手が公爵様なら、下手なお礼をしたら逆に失礼ですね」

「そう言うことだな」

 バーレントにうなずかれ、アメリアは肩をすくめた。
















 クイーン・ベアトリクス号が最初の港であるアールデルスを出航したのは午後になってからのことだった。そのため、アメリアが船内でとる最初の食事はディナーとなった。

 新婚旅行と言うことで、アメリアとバーレントが泊まっているのは一等客室だ。ベッドは何故かダブルベッドであったが、あまり気にしないことにしている。それよりも部屋の豪華さに目を丸くした。ほとんどの費用を出してくれたバーレントに礼を言いまくったほどだ。何でも、彼曰く、従軍していたために使い道がなかった金だから気にすることはないのだそうだ。

 一等客室を使用しているので、船内で使えるレストランも一級のものだ。航海中は何度かパーティーや晩餐会が開かれる。今日は、晩餐会が開かれていた。


 一応、アメリアもマナーは習っているが、一等客室に泊まる客は身分の高いものばかりで、値踏みされているような気がした。ちなみに、スイートルームは特別仕様なのだそうで、ここにスイートルームの客はいない。

 ざっと見渡すと、帽子を拾ってくれたコーレイン女公爵(仮)がアメリアに気づいて軽く会釈してくれた。いい人だ、彼女。

 だが、やはりこの状況は緊張を強いる。思わず難しい表情になっているアメリアに、バーレントが声をかけた。


「大丈夫か? 気分が悪いのか?」


 何度も言うが、医者だからだろうか。こういうところは本当にやさしい。

「いいえ。ただ、デザートを食べようか悩んでいるだけです」

 事実だ。今、アメリアたちの目の前にはデザートのカスタードパイが置かれている。甘いのは明白だ。事実、バーレントは手を付けていない。彼は甘いものが苦手なのだ。

「食べたければ食べればいいだろう」

「でも、太るかなと」

 すると、バーレントはざっとアメリアの全身を見て、一つうなずいた。

「大丈夫だ。少し太った方がいい」

「……」

 あえて聞かなかったが、胸が貧しいことを言っているのだろうか。だとしたら絶対に殴ってやる。自分で貧しいとは言ったが、胸は皆無ではない。普通だ。周りに巨乳が多いだけである。


 少し頭に来たアメリアは、デザートを食べないことにしたが、後で後悔した。食べればよかった。


 アメリアがそう思っていることに気が付いたのだろうか。たぶん気が付いたのだろう。部屋に戻った後、バーレントがルームサービスで焼き菓子を頼んでくれた。

「……参考までに聞くんですけど、なんで?」

「いや。食べたそうにしていたからな」

「……ありがとう」

 まあ事実ではあるので、ありがたくいただくことにした。バーレントはもそもそとマドレーヌを食べるアメリアを見ながらワインを飲んでいる。

「……あまり見られると恥ずかしいんですけど」

「そうか」

 バーレントは相槌は打つが、視線は逸らさない。アメリアは居心地の悪さを感じつつ、やはりもそもそとマドレーヌを咀嚼する。

 バーレントはそんなアメリアを、彼女がマドレーヌを食べ終わるまで見ていた。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


バーレントが何をしたいのか、私にもよくわからない……。

そして、最初にも言いましたがジャンル詐欺の予感。推理と言うほどでもないし。でも、恋愛か? と言われると微妙な気もする……。


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