乙女チック・ヒーローの日記
第四十七話 乙女チック・ヒーローの日記
●● 最初の日
目が覚めた。ゆっくり目を開けると、青空、緑。ここは森の中だ。
どうやら暖かい湯に浸かって仰向けに浮いているようだ。
プカプカ浮かんで空を眺める、ああ気持ちいい。
●● お腹が空いた日
どうも腹が減った。そういえばずっと何も食べてない。
そこら辺にいる動物をポカリとやって食べようか?
う~ん、いま一つ生物は気分じゃない。
●● 初めての子分に初めて会った日
全くもって腹が減った。生でもいい! 喰っちゃおう。
どうせ食べるなら太った奴にしよう。
湯に毎日浸かったせいか毛並みがツヤツヤだ。
それなのに腹が減っているのが、なんとも腹立たしい。
少し歩くと、小屋が見えた。
おお! でかい豚がいる、アレならいけそうだ。
人間も居た。
豚を食べようとすると、しがみ付いて止めようとする。ちょっとうっとおしい。
ポカリとやったろか…う~む、悪い奴ではない。
旨い物を持って来た。
よし! お前は、あたしの子分にしてやるのだ。
●● 旨い物を食べつつ暇を感じた日
子分はのそのそ食料を運んでくる。
なかなか良い奴だ。
いろんな料理をもってくるところがイイ! 分かってるのだ。
あたしはグルメなのだ。
でもこの毎日、ちょっと退屈だ。
●● 頭痛に襲われた日、いや、素敵な人を見た日
暇なので子分の働く家に行ってみた。
今日は人の動きが激しい。
あ! 見たこと無い奴がいるのだ。
こっちへ来いと手招きをする。あたしに生意気だ!
嫌な気配、こっそりしてもお見通し。
うっ! 頭痛い! 頭痛いよ~!!
あたしは森へ去った。う~頭痛いのが直った。
なんだ! この痛いの。黙れ! 馬鹿。
あいつ生意気だが…ちょっと頭がカッコいい。
●● 真ん丸お月様の日
今日は夜に出かけたくなる気分。
ロマンチックなあたし。
何か唸っている。
なんだ! そんな声。怖くないのだ。
あたしの方がすごい「ガハハハ」
ちょっとカッコいいあいつがいる家。
今日は夜なのに明かりがチラチラ。
いつか一緒にお食事しましょ。
●● 白い奴を見た日
あたしは白くて可愛い。
だ~がしかし、本当はうすいピンク色なのだ!
真っ白い奴は気に入らん!
森で見た。
人間か? 変な匂い。ヘンなことしたらポカリとぶっ飛ばす。
●● 馬に乗りたいと思った日
なかなかの馬、だけどかけっこでは負けない!
余裕でついていくあたし。
馬に乗りたい。
カピと一緒に。
●● 黒くて牙の奴が来た日
何か嫌な風が吹くぜぃ。
あたしの腕が鳴るのだ。なんだこりゃ。
カピがいる家を見に行こう。
そろそろ直接会おうかなぁ。ガハハ
ポッ、恥ずかしいからや~め~た~。
黒い匂いの奴。牙のある奴。でもありゃ人間かぁ?
やっぱ、あたしも家にはいろかな~
子分に合図する! ガ~ン
あいつめ! 気がつかないのだ!! ブゥ~
●● 子分を叱った日
子分がいつものように食事を持って来た。
相変わらず上手いが
ちょっとまてなのだ、料理は冷めた方が上手いのか?
あたしも食事に招待しろ~
あのカピに会わせろ~とは言わないぜぃ
ガハハ、ちょい恥ずかしいのだ~
子分め! 良い返事をしない。あたしは怒った!
もうオサラバだぜぃ
●● 黒い奴を見た日
今日は黒い奴を見た。前の奴とは違う完全に黒い奴。
違いが分かる女、それがあたし。
ああ! あいつめ~あたしの縄張りの子分たちを!
やるしかないぜぃ
●● 最強のあたしを見て欲しかった日
居た! 黒い奴。やっと見つけたのだ!
良くもあたしの仲間を~! な~んてカッコいいぜい。
正直に書くと、なかなかの相手だったぞぃ
パンチパンチ!
立ち上がってくる。やるなお主。
こりゃ、本気を出さねばなるまい。
超本気パンチパンチ!
ありゃ、やりすぎちゃったのだ。死体も残らず消えちったガハハ。
こんなに強いあたしを、カピも見たらきっと驚くのだぁ……ポッ
●● 不覚ながらお休みの日
ちぃ、ハードな戦いで疲れちったぞぃ。
しばし温泉に浸かってお休みするのだ。
●● ヒーローのいちばん長い日
すっかり復活! 腹がぺこぺこなのだ。
しかたねぇぜぃ、子分をそろそろ許してやるか
久しぶりにカピの家を見に行くのだ。
ああ! 子分が! 知らん娘っこと歩いてる。
チッ、気のせいか、いつもより笑顔なのだ。
こっそりと後をつけちゃうのだ、ガハハ
ん、誰だ?
周りに沢山の気配。かくれんぼか? あたしの目はごまかせねぇぜい。
ありゃりゃ、子分の奴、囲まれちった。
何してるのだ! そんな弱っちい奴ら相手に、情けないのだ!
ボコボコなのだ~やられてるのだ~ガハハハ笑っちゃうのだ~
ぷっ、お尻蹴られてかっこ悪いのだ~!
ふん! おやびんを軽く見る子分など助けに行かないのだ
美味しい食べ物をいくら持って来たからって……。
ぬぬぬ、なんだ! イライラ。
もう終わりなのか、もう立てないのか? せっかく子分にしてやったのに。
そんな弱い奴は知らん!
!! また毛が、サワサワした。
あの人間達め気配を探ってるぞぃ、無駄無駄。
ったくなのだ、娘っこを守ってるのか? あ~あ。
こんな奴らほっといて、久しぶりにカピの家行こ~う……
…………
…………
どっこい! 光の速さで近づき! ヘッドアタッ~ク!
(マルスフィーアにナイフを振り下ろした強襲者達のリーダー。突然近くの茂みから飛び出した、白い影に気付くこともなく「うぎぇ」短い悲鳴を残し、意識無く数メートル先の大木に激突した)
素早く空中回転クルリン~スタッっと華麗に着地なのだ!
(今、自分たちの目の前で何が起きたか全く理解できない、スモレニィを痛めつけていたローグの二人組み。ただ目を見開き立ち尽くすのみ)
お前たち、よくもあたしの可愛い子分の運ぶ食い物を~許さん! なのだ。
(トコトコと四足で近づいてくる白い生き物、立ち上がると小さな手を拳にした。ヒュン! ヒュン! 二度風の音がしたと思った瞬間、ローグ達の顎が砕け、折れた前歯が宙を舞った。幸いにも、強烈なフックで彼らの脳が激しくシェイクされた事により、痛みを感じる隙も無く無意識の世界に沈んだ)
思ったとおり激ヨワだぜぃ。
これじゃあ撫でるほどのパンチしか使えねぇぞぃ。
残り三人、同じ目に遭わせてやろうとしたら、弓の奴が手を大きく振って
許してくれ~と言ってるのだ。
(弓使いの男は慌てて叫んだ、マルスフィーアに向って。「待て! 待て! 俺はあいつ等に雇われただけだ! 許してくれぇ。この白い悪魔! 恐ろしい召喚獣を収めてくれ~たっ、頼むっどうかお願いだぁ」)
だ~れが召喚獣だぁ! あたしは~
(白い悪魔は一声吼え「イモ~!」震える男にそっと寄り添う)
ボコっとお腹に一発打ち込んでやったぞぃ。
(弓使いは今まで経験したことの無い痛みを味わった。許容範囲を超えた脳の痛み回路がショートすると白目をむいて崩れ落ちた)
後の二人は、石像のように呆けて突っ立ってる。
もういいや。
あたしはグースカ寝てる子分の元へ行き、ビビビ・ビンタで起こした。
いいか? なのだ。みっともない子分を助けるためじゃねぇぜい
食事を頂くためだぜぃ。
当たり前。子分の持ってたもの全部食べてやったぜい。
娘っこがビービー泣いてしがみ付いて来る。
柔っこくて良い匂いがする。まあ悪い奴ではないのだ。
いいだろう、お前も今日から子分なのだ。
うん、そうなのだ、あたしのクッション係になるのだ。ガハハハ!
なんだって!?
カピに会わせる? ガハハハ、こいつ~気が利くのだ分かってるのだ。
ウフフ、初めてのお食事会なのだ。
ディナーの様子は後で書こうぞぃ。
●● ん!? 誰だ! お前!
あたしの!! 乙女の日記を覗き見る奴は~
うぉ~恥ずかしいのだ~いやなのだ~もう止めたのだ!!
もう日記は書かないのだ!!! フンッなのだ!
<第二部 完>




