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魔法少女の物語

第四十一話 魔法少女の物語


 カピ達三人が、冒険者酒場「ぐっすり眠る仔豚亭」へ戻ると、微かなざわめきが起きていた。それは極一部の者を除き、予想していた真逆の戦闘結果だったからだ。


 しかしもうカピには周りの様子など気にならない。なぜなら、もっと強く興味を引く謎の冒険者ランサーが同じ席にいる。おまけに、大きなおまけに美しい女性である。


 ウエイトレスが笑顔で注文を届けに来た。


 「は~い、冷たいウォーターとナッツシェイク二つ! お待ちどう」


 「二つ?」カピは頼んだ物より数が多いので聞き返す。


 「今回は、マスターのおごりよん。初勝利おめでとう~ミ・ル・クたっぷりのシェイクをご堪能あれ」

 カピにウインク一つして席を離れていった。


 「マルちゃん。飲み物これで良かった? 祝勝会だから……やっぱり、お酒のほうが良かったとか?」

 カピは前に座った軽装備の女戦士マルスフィーアに尋ねた。


 「これでいいです。私……お酒を飲むと……ううん、なんでもない。お酒は遠慮してますから、うん、美味しそう」



 カピはもう決めていた。彼女を新戦力としてスカウトすることを。隣で静かに腰掛ける執事のルシフィスは、明らかに不満そうだったが。


 「ねえ、マルちゃん? 当然冒険者だよね、槍使いの戦士、ランサーって確か言ってたけど」


 「はい! そうです。カピ様は? 何のクラスなんですか?」


 「ぼ、僕は……大きな声で言えないけど、ヒーロー…………って、信じられないよね~」テーブルに身を乗り出し、手を口元に添えちょっと声を落として答えるカピ。


 眼鏡をかけた少女の瞳がキラッキラッ輝く。尊敬の眼差し。


 「すごい! 私、ヒーローに憧れます。信じます信じます! さっきのあの戦い、あんなの見たこと無いです。絶対信じます」


 「……」ジ~ン。なんだか物凄く嬉しいカピ。言葉も無い。


 「執事さんは? 何クラスですか? やっぱりレンジャーですか」


 「……わたくしのことは、ほっといて欲しいものです。……が、強いて言うならばカピバラ家筆頭執事。それがわたくしのクラスです」


 「ルシフィスは教えてくれないんだよ~ケチだね。一体何クラスか……もったいぶっちゃってね」


 「ふん」鼻で一つ笑い、執事は続ける。

 「マルスフィーアさんこそ、疑う訳ではないですが本当にランサーなんでしょうか? わたくしにはどうも腑に落ちませんね」


 「あ~疑ってるじゃない」カピが指摘したので少し顔を伏せる執事。


 「…………やっぱり、執事さん。さすがですね…分かりますか……本当は私、私こそ信じてもらえないかもしれないけど……」


 信じるよ! っていうまじめな顔でカピ。そこまで興味ある訳でもないので、あなたこそ勿体つけずに言って下さいと執事。


 「私の、私の本当のクラスは…………」


 少し間を置き、二人の顔を見つめた後


 「マホウランサーです」


 『マホウランサー』確かに耳慣れないクラス。カピも聞いた事がない、素早くカピにしか見えない魔法のマニュアルを呪文を呟き開く、やっぱり載っていない。執事も当然今まで会った事もないクラスだ。


 カピは、こりゃあルシフィスは信じないぞと思った。


 「魔法、ランサー? と言う理解でよろしいのですか?」


 「そう! そうです。魔法使いと槍使いのミックスクラスです」


 「なるほど……。そうですか、まあ、ユニオンのクラス……有り得ない事も無いでしょうね。……その様に正式登録なされた以上」


 (え!? 信じるのルシフィス。以外だ)そう驚くカピだった。


 「どうして、私がマホウランサーになったかは、長い話になりますが……聞きますか?」

 少し聴いて貰いたそうなマルスフィーア、やはりそこはお話好きな少女だった。


 「いえ別に、結構です」冷たく答える執事にカピが言葉を被せる。


 「あ~もう! ルシフィス~! マルちゃん、詳しくは今度でもいいからさ、軽くかいつまんで教えてよ」


 「はいカピ様」



 特殊なクラス、マホウランサーのマルスフィーア誕生物語、身の上話はこうだ。


 ――名門魔法学校で一流の魔法使いになるべく修行を重ねていた幼き彼女。ずば抜けたINT能力でメキメキ頭角を現し、順調にトップへの階段を上るはずだった、しかしそこで早くも致命的な弱点が見つかる。


 MPが全く伸びなかったのだ。


 それでもめげない彼女、それまで以上に努力し学びを続けた。だが結局、壁は破れなかった。どんな魔法も一度しか使えない魔法少女。それでは実戦になど挑めるわけも無く、ある時点で完全に劣等生となった。


 もはや手の打ちようがない、魔法使いの道はあきらめ学校を去ることになる。


 「でも私、絶対に立派な冒険者になりたいんです」


 彼女は思いもよらない行動に出た、戦士への転職だ。MPをほとんど必要としない戦士ならばと、一からやり直す事を決心したのだ。


 「もう駄目で元々で、ユニオンに申し出ました。そうすると審問官から意外な答と問いが返ってきたんです。『能力値が新たなクラスに合致する、汝のクラスの名を答えよ』って」


 戦士でやって行くことを望むなら、武器は一番リーチの長い槍が安全だと考えたマルスフィーア。


 彼女は高々と答えた。


 「我はマホウランサーなり」――



 ――――「なるほどねぇ、冒険者ユニオンって思ったより意外と融通が利くんだね。すんごく興味深かったマルちゃん。え~っと……ところで唐突な相談なんだけど、良かったらカピバラ家に来ない?」


 熱く語るマルスフィーアの話を相槌を打ちつつ聞きながら、ますます気持ちが固まったカピ。


 執事は目をつぶり、ため息をつきそうにして諦めポーズ。この態度が現す彼の胸の内は、カピの選択がベストとは言わずともベターであると思っている、ずいぶん息の合って来た主人にはなんとなく分かった。


 本日の目的も含めカピは尋ねた。


 「今日、この酒場に来たのは目的があった。もう分かってるとは思うけど、僕はカピバラ家の新領主、まあらしくないけどね。……で、目的と言うのは、冒険者の戦士探し。我が家は今……う~ん、と言うか僕が、心機一転再出発って状態で少々人手が足りないんだ。そこで君を僕の護衛として雇いたいんだ、ずばり言うと僕達一家の仲間になってよ」


 良き出会いを大切にするマルスフィーアにも迷いは無かった。パッと笑顔を咲かせ

 「はい! ぜひお願いします。こんな私でよければ」


 彼女が二つ返事で引き受けてくれて、嬉しく微笑むカピだったが、この言い方では正確に伝え切れていない、フェアでない事に気がつき、ちょっと気まずそうに付け足す。


 「領主って聞くと凄そうなんだけど……実は、ここだけの話、家はちょっと~アレ……貧乏なんだ…………お給料は安いよ、あっ……後払いになっちゃうかも」


 「かまいません!」



 カピバラ家領主カピは、マルスフィーアを正式に招きいれた。


 「だけどさ、悪い所ばかりじゃないよ! 泊まる部屋は快適だし、なんと言っても食事がとっても美味しいんだ」


 最後にもっとも大事な一言。


 「そして、家には最高の仲間が待ってる!」

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