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序章~闇の浸食~

ハロウィンの季節になったなあ、と思ったら書きたくなりました。和もゴシックもいいとこ取りにしようと思っていますw

ジャックオランタン作りたーい!

 



         序章




 ━━闇が、満ちてくる。


 夜の帳が下りて、古都である雅京に眠る者たちにも、力が漲ってくる。

 ジジ・・・と低く音を立てて点滅する街灯は、つい先の月に、電球をつけかえたばかり。

 不定期に点灯する鈍い光に、柵で囲まれた敷地にある柿の木も、色の剥げた遊具のある公園も一瞬姿を見せては、またすぐに闇に沈み込む。


 街の人間は気づいているのだろうか。

 闇の力が強くなるこの季節には、闇に浸食されて、光は本来の力を失っていく。たとえどんなに強い光であっても、闇が蠢く力の方が、遥かに強い。

 古都であるこの街ですら、この有り様。都市へ行けばもっと闇は凶暴化する。夜を彩るネオンや街灯は、夜の闇を隠すが、本来の光とは全く別物。光があるところには必ず影ができ、その影は闇の者の住処となる。その恐

ろしさに、気づいているのだろうか。人の心が何かに憑かれたようび暴走するのは、闇の者が跋扈するからであるのに。


 朽ち果てそうな古い木の柵の上を、黒いすらりとしたものが歩き、街灯に鈍く照らし出された紺色の石畳の上へと降り立つ。その足音は、まるで闇に吸い込まれたように、静かであった。

 その漆黒の美しい毛並みの黒猫の姿を見る者はいない。

 

 弦のようにピンとした髭を夜風に靡かせ、彼女は雲が覆った暗い夜空を仰いだ。

 風が吹くたびに小さな鼻をひくひくと動かし、何かを感じとろうとしているかのようだ。涼やかな眼差し。その瞳はパープルと、ブラッドオレンジのオッドアイ。美しい瞳を時折、路の端に落ちる影に向け、様子を伺っている。その闇が震えたかと思うと、1mくらいの獣を形作った。それは闇からそろり、そろりと歩み出て、点滅する街灯の僅かな光に姿を現した。


 強い風が吹く。

 暗い雲が動き、遮っていた月光を解放する。

 緋い月。

 まるで炎のような緋色が夜空を染め上げた。

 ━━闇がまた、強くなった。


 緋色の月光を浴び、獣は気分良さそうに切れ長の群青色の瞳を細めた。

 毛色はシルバーグレイ。四肢は太く逞しく、獲物を仕留めるに十分な筋肉が夜闇の中でも、はっきりと分かる。発達した顎の形状からも、その荒々しい性質は伺える。

 この姿で人と出くわしたら、相手は悲鳴をあげることすら叶わないだろう。

 恐怖というのは、絶望とよく似ている。大きすぎれば、救いを求める声すら出なくなるものなのだ。


 「久しぶりだな、バンシー。」

 「そうね。どこかで見知った気だと思ったら、やはりあんただったのね。しばらく姿を見ないと思ってたら、おっ死んでたのかい。あんたはとっくにあたしと同類だと思っていたよ。」

 獣は、唸り声に似た声でバンシーに笑いかける。バンシーは穏やかな表情で獣を見、軽口で返した。

 「30年も生きたんだ、十分だろ。ここからはお前さんと同類さ。まぁ、死にたてホヤホヤのオレじゃ、お前さんと違ってまだ、闇の力が強い時にしか外へ出て来られないがね。」

 「・・・ジャック。なぜ転生を選ばなかった?らしくないじゃないか。」

 「へえ。オレらしいって、どういうふうだい?」

 軽い口調で揶揄するように言う獣を取り合わず、バンシーは獣に近づく。自分より5倍以上大きな体格の獣だが、怖がる必要は皆無だ。美しい灰銀の獣。美しいバンシーですら、一瞬、目を奪われそうになる。


 「あんたは欲深い。欲ってのは希望と同じだからね。生への執着を生む。」

 「人聞きが悪いな。オレのは欲望だ。執着ならしてるぞ。生へ、ではなくてお前に、だがな。」

 ははっ、と獣はあっけらかんと笑う。瞳の中に寂寥の色を浮かべたのをバンシーは見逃さなかったが、見ないことにした。

 「ヒヨっ子の犬コロが何を言っているんだ。」

 「そりゃ、バンシー。お前と比べりゃ、誰だってヒヨっ子だろうがよ。オレは心を決めて、転生よりお前と生きる道を選んだんだ。これからイヤってほど、時間があらぁ。第一、オレは狼だ。犬コロじゃねえよ」

 大して変わらんだろう、とそっぽを向くバンシーだったが、その瞳は穏やかに笑みを作っている。

 「何万年もこれまで一人でいたんなら、もう、一人にも飽きただろう?だったらオレと連れ添ったっていいだろう。十数年くらい待っていてくれたら、この時期だけじゃなく、ずっと近くにいられるようになるだろうし。」

 「どこまで期待できるもんかね」 

 「いいよいいよ。信じないならそりゃそれでいいさ。オレは勝手にでもお前さんに連れ添うだけだ。」

 狼はバンシーの耳に、毛づくろいするように口づけた。


 「全く。気も抜けないね。」

 突き放すような強い口調で言うと、バンシーは瞳を伏せて、眉間に力を入れた。再びオッドアイが現れると、瞳の色は金と朱に染まっている。体の筋肉が動いたと思うと、みるみるその姿は160cmほどに広がっていく。全身を覆う毛は薄くなり、漆黒の長髪が風に靡き、切れ長の瞳、紅も塗らないのに緋く濡れている口唇。腕をさっと月に翳し、力を込めて拳を握れば、古都に映える着物姿になる。黒地に、銀の薔薇が縫い込まれている。

 冷たく、凛とした美貌に、銀狼・・・ジャックはしばし見蕩れた後、低くピュウ、と口笛を吹いた。

 「美しいね。・・ぞくぞくする。力の差は歴然、ってね。ますます他の奴にはやれねぇな。」

 「減らず口を叩くでないよ、犬っころ。」

 横目でジャックを見遣ると、踵を返してバンシーは石畳の道を歩いていく。このすぐ先には神社の境内がある。鳥居を潜る前に、バンシーはジャックに向かって呪をかける。普通の妖では、神社の境内にすら入れない。弾かれてしまうのである。

 呪をかけられたジャックは、意を得たり、という満足気な表情を浮かべる。呪をかけたということは、少なくともバンシーと共に行動することを許されたということなのである。

 「魑魅魍魎になられちゃ寝覚めが悪いからね。」

 境内の石灯籠にバンシーは息を吹きかけて進む。息を吹きかけられ、石灯籠に青白い炎がゆらゆらと起つ。鬼火だ。

 ジャックは黙ってバンシーに寄り添っている。社の裏へ回ると、そこにも石灯籠。表面の苔や黒ずみが、他と比べてもいかに古いものかを物語っている。

 バンシーは金と朱の瞳に力をいれ、先ほど同様、息を吹きかけた。たちまち石灯籠はまるで裂けるように左右に分かれ、間にぽかりと暗い空間を作った。



 「最後の確認だ。ここをくぐったら、もう転生はかなわないよ。」

 「最初から、そのつもりだ。」

 言うなり、バンシーより先に素早く闇に躍り込む。ほぅ・・と、一つ小さなため息をつき、バンシーも闇に溶け込んでいった。後には古灯籠が元の姿で煌々と照らす月の光に鈍く光るのみだった。


 


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