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第八話


朝食をとり、供を連れて早速城下におりた。

貴族の三男坊と下働きの2人組に変装をし、

少しだけわくわくしているのを執事に気取られぬよう平静を装った。



城下の様子は側近からも報告を得ていた。

いわく、人にあふれ活気づいてはいると。


確かに往来に人は多い。


が、グランはなぜか違和感を感じていた。

人は多いが、圧倒的に貴族が多く平民は少ない。

市場に出向くも、商人は声をかけてこない。


(子供もいない…?)



街を歩けば歩くほど、グランの違和感は膨らんでいった。


よく見ると市場もところどころ空き店があり、

品物も種類は多いが数が少なかったり、

数だけあるが種類は少なかったりのどちらかである。



さらに歩みを進めると、完全に廃墟になった建物が目立つようになった。


(これは…一体どういうことだ…?

報告が間違っているのか?いや、確かに人は多いが…)



と思考の海に入りかけていると、ふいに男の子とぶつかった。


「おい、大丈夫か…」

「申し訳ございません!!!!この子もわざとではないんです!!!

どうか、どうかご慈悲を!!!!」



男の子を助け起こしていると

真っ青な顔をした母親らしき人物が現れ、

こちらに向かって土下座せんばかりの勢いで謝ってくる。



こちらの不注意だということと、

お忍びで大事にしたくないということもあり、

平謝りする親子を置いてそそくさとその場を離れ、

グランは息をついた。


「いったい何だってあんなに必死だったんだ…?」



グランが首をかしげていると

それまで黙ってついてきていたお供の騎士が言った。



「陛下のことを貴族だと思われたんでしょう」

「どういうことだ?貴族だとぶつかっただけであんなに謝る必要があるのか?」

「この街では今、貴族に逆らう人間はおりません。

たったあれだけのことですが手討ちにされてもおかしくありませんから。」



またもやグランは衝撃をうけた。

この騎士は、今日のお忍び計画を受けて、執事が手配した騎士である。



あの執事は陰険で何を考えているが分からないが、

前王の若き時代から仕え、グランも幼少期から面倒を見てもらっていた。

それは即位した今も変わらず、

それゆえ頭もあがらず腹立たしいこともあるが、

有能さゆえに大臣も一目置いている人物である。



そんな彼が自ら「とびきり」と称したこの騎士。

その騎士が今、グランに語ったことが嘘とは思えない。

何より先ほど見た親子の様子が事実だと物語っている。



グランが衝撃を受けているうちに、

騎士は王を連れ、目についた串物屋に入っていった。

店主の目につかないようグランを隠し、

肉を注文しながら「最近どうだい?」と気軽な感じで店の親父と会話を始めた。



「いや~どうにもだめだね。

また税があがっちまったからな。でもうちはまだいい方さ。

あっちの果物屋は仕入れ先もやばいらしく、いよいよらしいぜ。」

「やっぱりジューノ地方の水害の影響か?どこも似たようなもんだな」

「おっあんちゃんとこもかい?

ここだけの話だがジューノ地方はさらに悪いことに、

領主が補助金をうわっぱねしてるらしいぜ」

「まじかよ、やってらんねぇな」

「まったくだ、ま、『傀儡の王』の世の中じゃあしょうがねーよ」

「ありがとよ、またくるぜ」



串物屋から十分に距離をとったところで

騎士が一つの店を指差した。

「あの果物屋が先ほどの串物屋が行っていた店ですね」


グランがのろのろと目をやると、

青白い顔をした女店主が座り込んでいる。

売り物であるはずの果物は両手で足りそうなほどしかない。



「昨年、ジューノ地方で大きな水害があったことはご存知ですか?」


グランはうなずいた。

側近からの報告にもあがってきている。


ジューノ地方はもともと水が豊かな地方である。

そこで季節外れの雨が二週間近く降り続いたのである。

川が氾濫し、家や作物が流されてしまった。

またかろうじて残っていた作物も根腐れを起こしてしまったのである。




「しかし…一定期間税をさげ、十分な補助金を送り、

土地は回復していると報告にはあったが…」


「どうやら領主が横領しているようですね。

しかも恐らく下げた税との差額分も。

それでは民は回復のしようがないのでは?

馬鹿正直にそこまで報告に書くものはいないでしょう」



普段、側近にこのような物言いをされれば、

グランは怒り心頭していただろう。

誰に向かって物を言っているのだ!と。



しかし先ほどの串物屋の話と、

目の前の果物屋の店主を見ていると、

とてもではないがそんな気になれない。



グランは気づいてしまった。

自分が今まで見ようとしてこなかった真実に。


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