第二話
一日のうち、グランにとって最も気が重い時間。
それはディナーである。
ディナーは王と王妃と跡継ぎである第一王子で取る。
これは王国建国以来のしきたりである。
(余計なしきたりを決めやがって…)
会話もなく粛々と食事が進む中、
心の中で悪態をつきながらグランは執事を睨んだ。
何度となを辞めるように告げているが、
のらりくらりとかわされているのである。
そんな視線を知ってか知らずか
執事はどこ吹く風で涼しい顔をしているが。
正妃であるクリスティーナは
一分の隙もない動作で食事を勧めている。
その横で息子であるニコルが今日学んだことなどを報告している。
「母上、今日はね、ご本を読んだの!
こーんな分厚いやつ読んだんだよ!」
「まあ、ニコル。すごいわ、今度母上にも教えてね」
正直、グランは空気のような存在である。
これが毎日、毎晩。
この決まりを決めた見知らぬご先祖と、
それをかたくなに守ろうとする執事を
恨みたくなってもしょうがないとグランは思う。
じゃあ話に入ればいいじゃないか、と言われれば
それまでだが、政略結婚した正妃とはこの2年ほど公務以外で会話もないし、
息子は最初はちらちらこちらを見ていたが、
最近ではちらりとも見なくなってしまった。
別にグランとて人見知りなわけではないが、
完全アウェイな空気の中で平然としていられる程図太くもないのである。
が、妙なプライドもあり、あくまで内面だけで、
外から見る限り平静を保っているが。
「部屋に戻る」
今日もグランは料理長が腕によりをかけた料理を堪能することもそこそこに、
いそいそと食堂から離れるのであった。
その後ろ姿を見送って正妃と息子がほっと息をついたことも、
執事とメイド長が顔を見合わせてため息をついたことも知らずに。




