第十九話
自室に戻ったグランは、王妃との話を整理していた。
水害に見舞われたジューノ地方はジュノス伯が納めているが、
どうやら私利私欲に走り、復興が遅れている。
その結果領地内では感染病が流行り、
さらにはジューノ地方の隣ナサ地方にも広がっている。
ところが当のジュノス伯は領地を放り出し、東へ避難している。
それを受け、ナサ地方の領主ルアーナ卿は
ナサ地方にもジューノ地方にも隣接しているオーグ伯に何らかの助力を求めた。
オーグ伯は愛娘ノアも感染した疑いがあるため、王都に避難してきている。
そして最も問題なのは、そんな状況にも関わらず、
議会では「ジューノ地方の復興は進んでいる」と認識し,
何も対策を講じてないことだ。
(…議会か…。)
グランは『暴君★フローチャート』を手に取った。
『隠れ暴君タイプの政治形式に多いのは、議会制ヨネ。
それがダメとは言わないけど、議会任せにし過ぎてない!?
本来議会は領地の代表として、領民の声を政治に反映するためのもの。
だけど、その実、ちゃぁんとコントロールしないと、
貴族の欲を満たすだけの場になりがちなのヨネ~。
アナタにとって、最も守りたい人はダレ?
『王』とは誰のために在るものなのかしら?
それを考えた上で、今の議会がダレのタメにあるのか、見直してみて☆
それが貴族のタメのものになっちゃってたら、
そんな議会、いっそのことリセットしちゃえばイイワ!!』
フローチャートに書かれてある内容にグランは自問自答した。
『王』とは誰のために在るものなのか。
グランにとっては答えは明快だ。
賢王と名高い父王を尊敬していたし、
次代を担うべく己を磨いていた兄達を身近に見ていたのだ。
王や兄が生前折に触れ幼いグランに伝えていたこと。
「王たるものは、世襲制ではなく国民が民意で王が選ぶ時でも、
王に選ばれる人間でなくてはならない。王族もしかりだ。」
「王や貴族には権力があり、富がある。
それは全ての国民が飢えることなく、理不尽に命を奪われることなく、
笑って暮らせる日常を作るために、国民から与えられている『手段』だ。
己の権力や富を増やすことを目的にしてはいけない。
お前も王族の一員なら、それを忘れてはいけない。」
忘れていたわけではない。
グランにとってそれは当たり前のように根づいている考えだ。
ただ…残念なことに、
自分にとっての当たり前が他人にとってもそうだとは限らない。
グランにはそれが分かっていなかったのだ。
グランは己の未熟さを知っているからこそ、政治を大臣や議会に委ねた。
もちろん承認は最終的に自分に回ってくる。
そこで内容は確認しているつもりだった。
その内容が貴族が己の権力や富を増やすため、作成されているとは思わずに。
海千山千の議会貴族たちにとって、
世間知らずの王好みの報告書を作成することなど朝飯前である。
議会が誰の為のものか。
少し前のグランであれば胸をはって「国民のもの」と答えただろう。
しかし色んな物を見て、聞いたグランは、
今の議会が決してそうではないことに気付いてしまった。
今の議会は貴族の為のものになってしまった。
(いや、違うか…。私がそうしてしまったんだろう…。
傀儡の王と言われても仕方がない状況に。
『ちゃんとコントロールしないと』…か。)
フローチャートの言葉はいつだって軽いが、重い。
『いっそのことリセットしちゃえばイイワ!!』
(リセット…そんなことできるのか?)
しかし、ジューノ地方の状況は一刻を争う。
領主ですら土地を投げ出したのだ。
領地がどうなっているかわからないが、
決して議会で報告されたような状態でないことだけは確実だ。
一度は議会で報告・承認された案件を簡単に覆すことはできない。
だが、疑問を投げかけることはできるのではないか。
それを呼び水に、議会のあり方自体を見直すきっかけになれば――――。




