一章・2
数時間後、佐野は村の付近の山奥にいた。彼の顔は心なしか、落ち込んで見えた。
≪いくらなんでも落ち込みすぎっすよご主人≫
佐野の肩に止まるカラスが自らの主人を慰めるかのように肩をつついた。
「……」
≪まっさか警察軍ってだけでここまでされるとはねぇ…≫
警察軍は、独裁国家の元につく、反乱を抑える役職にあたる。虐殺はもちろん、拷問から何から何まで、汚れ仕事を公的に行う。そういったことを知っている村人たちが、そう簡単に佐野を受け入れることなどなかったのだ。佐野が見える範囲には、村人は全くおらず。全員が家にこもって震えあがってしまったのである。
「しかたあるまい。警察軍だからこそな。」
≪そりゃまぁ、そうなんだけどさ…≫
それでもやはり、カラスは腑に落ちないところがあったみたいだ。そのような心配をものともせず、佐野は山道を進んでいく。
「八咫烏。周囲を探索してこい。」
≪へいよ≫
佐野が指示を出すと、八咫烏と呼ばれた先ほどのカラスは、佐野の肩から飛び立ち、消えていった。
「さて」
180度方角を変え、振り向く。
「どちらさんですかな」
目の前には、見知らぬ男が一人。風貌からして、佐野と同じくらいの歳であろうか。
「探し物らしいな。」
男は佐野の質問には答えず、一歩ずつ近づいてくる。
「それがどうされたのです」
「馬鹿だなぁ。俺がその場所を知ってるってことだよ。」
相変わらず、会話が通じない。
質疑応答ができないことに佐野は戸惑う。
「案内してやるよ。ついてきな」
どうしてここまでこの男は話が通じないのだろうか。そう思いつつも佐野はこの男についていくことにした。何かあれば切り捨ててしまえばいい。