一章・1
とある辺境の地の村の役場に男はいた。
村長は突然の来客に驚きをいまだ隠せずにいた。
なにせ、このような観光の地でも無き村である。都とも遠く離れ、とてもでないが、村人以外、ここに来る理由、というものが見当たらない。
「それで、何の御用ですかな?」
村長は煙管をふかしつつ、来客の男の向かいに座ると、名も知らぬその男に要件を聞き出した。
「それ以前に、どなたでいらっしゃいますか?」
男が答える前に村長は質問を変えた。
「申し遅れました。私、薩摩警察軍少尉補佐、佐野松陰と申します。」
冴えない容姿からは想像はできないその恭しさに、村長は関心した。自分より身分が下の人間に真摯な受け答えをする男、佐野に村長は好感を抱いた。
「それで、佐野少尉補佐が、何の御用時でいらっしゃいますか?」
あらためて言葉を変え、問いただす。
「先日、こちらの村の近くに、大きな光が落ちてきた、との目撃情報がありました。」
「ほう。」
「そのことに関しまして調査に当たりますので、しばらくこの村に御厄介になるであろう、と予測したのであいさつに…と思いまして。」
「なるほど。」
村長はむぅ、と考え込むしぐさをしつつも
「わかりました。なにもないような村ですが、ゆっくりしていってください。」
と佐野の滞在を容認した。