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その必殺技、上位互換で返します ~追放された転生者、前世の攻略知識で勇者の奥義を生配信中に超えていく~  作者: シッパイマン
1 偽物と呼ばれた男

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第10話 その連携、俺たちが本家です

「私が、最後まで入る」


 セリカは、そこで記録を止めた。


 魔導板に映っているのは、昨日の彼女だ。


 青銅の守護者の武器を、風の刃で押し出している。


 その向こうへ、俺の雷槍が届く直前だった。


「昨日はここで、レインに任せた。でも、次はもう一歩、前へ出たい」


「相手も、その風を使ってくるぞ」


「だから」


 彼女は腰の剣へ触れた。


「出した後、剣がどこに残るかも知ってる」


 俺は、画面の中の細剣を見た。


 風を飛ばした直後。


 守りに使っていた輪はほどけ、切っ先は体の外側へ向いている。


 ここから、次の相手へ剣を戻す。


 何度も隣で見た動きだった。


 翌日の午後。


 第二試練へ向かう前に、俺たちはギルドの練習場を借りていた。


 ヴァルトたちは午前中に第一室の調査を終え、第二室でも同じ境界の仕組みが働くことを確認している。


 次の守護者を倒す依頼も、正式に受けた。


 俺たちは、もう少しだけ準備してから出るところだった。


「やってみるか」


「うん」


 俺は木剣を構えた。


 セリカが踏み込む。


 剣を合わせ、引いて、もう一度。


 一度目は、俺の剣先が彼女の肩へ触れた。


 二度目は、彼女の切っ先が俺の胸元で止まった。


 三度目には、二人とも同じところで足を止めた。


「……そこだな」


「ここなら、届く」


 前世、攻略動画を出した翌日には、同じ連続技を使ってくる相手が増えた。


 自分で広めた技に負けて、椅子の上で頭を抱えたこともある。


 そのたび、次の動画で何を話すか考えた。


 どこまで待てるか。


 どこからは止まれないか。


 強い技ほど、使う側になったときの困りごとも知っている。


 俺は木剣を下ろした。


「最後に入るところまでは、俺が作る」


 セリカは、短くうなずいた。


     *


 第一試練の広間には、調査用の灯りが増えていた。


 動かなくなった青銅の守護者の周りで、職員たちが作業をしている。


 俺は映写球を浮かべ、奥へ続く通路を映した。


 『本人による攻略配信きた』『二人分を一体で使うって、普通に強くないか』というコメントが流れる。


「強いと思います」


 俺は答えた。


「昨日覚えた技も、もう相手が持ってる。どこまで使えるか、まず見ます」


 『自分の必殺技を解説した翌日に対策するの、忙しいな』と続いた。


「今日は、使われた側の話もできますね」


 セリカが小さく笑った。


 通路の先に、白い境界線。


 その向こうで、白銀の守護者が待っている。


 細身の剣。


 すらりとした腕と脚。


 胸の中央には透明な覆いがあり、その奥で青い核が脈打っていた。


 昨日の青銅の守護者より、関節の隙間が小さい。


 装甲も、動きを妨げない形に組み合わされている。


「ここから先は、また君たち二人だ」


 ヴァルトが、俺たちの背中へ声をかけた。


「無理なら、一度戻れ」


「分かっています」


 俺たちは、線を越えた。


 白銀の守護者が剣を上げる。


 青い板が、その前に一瞬だけ現れた。


 《瞬壁》。


 剣へ、風が巻く。


 両肩の上で、二本の雷槍が形を持った。


 どれも、よく知っている。


 ただし、核から流れ出す魔力は、俺たちのものとは違った。


 技を覚えただけでなく、それを動かす力も、あいつ自身が持っている。


 俺は剣を抜いた。


「始めよう」


     *


 俺が正面から、セリカが左から。


 まず、二方向へ分かれた。


 光矢を一本放つ。


 白銀の守護者の前に、青い板が立った。


 ほとんど同時に、横から入ったセリカの剣を、風の輪が受ける。


 光矢が散る。


 細剣が外へ流される。


 そこから風の刃が飛んだ。


 セリカはすでに身を引いていた。


 その足元へ、雷槍の先端が向く。


 まだ、撃たない。


 彼女が着地する寸前。


 そこで初めて、一本目が放たれた。


「セリカ!」


 俺は彼女の前へ《瞬壁》を張った。


 白い光が弾ける。


 その間に、守護者は俺へ距離を詰めていた。


 細剣が、喉の高さを走る。


 俺は切っ先を弾き、半歩下がった。


 二本目の雷槍が、頭の上でこちらを追っている。


 これが、待たれる側か。


 嫌になるくらい、よくできていた。


 俺は剣を振るふりをして、先に足を引く。


 槍は飛ばなかった。


 浅い誘いには乗らない。


 そのまま斜めへ踏み込み、今度は実際に斬りつける。


 風が俺の剣を受け、雷槍が放たれた。


 俺は守護者の腕を押し、体を横へ抜いた。


 槍が、脇腹のすぐ後ろを通る。


 床に、黒い筋が走った。


 射出した後の軌道は、まっすぐだ。


 俺が組んだとおりだった。


 背後から、セリカの剣が入る。


 守護者は小さな防壁を背中側へ出し、振り向きながら彼女を追い払った。


 一本目の雷槍を、もう作り直し始めている。


 『隙がない』『ちゃんと撃つのを待ってくるぞ』という文字が流れた。


 俺はコメントを小さくし、息を整える。


 相手の失敗を待っているだけでは、勝てない。


 使いたい技を、こちらが選ばせる必要がある。


     *


 次の雷槍は、俺を狙って撃たせた。


 守護者の正面で、左手に石の針を作る。


 その胸へ狙いをつけた。


 こちらの攻撃が形を持ったところで、白銀の指が開く。


 雷が来た。


 俺は針を解き、左手の前に銀色の面を張った。


 《転鏡》。


 強い衝撃が、腕から背中へ抜ける。


 だが、面は保った。


 雷槍が進む向きを変え、守護者へ戻る。


 青い板が現れた。


 轟音。


 雷と防壁が、互いの光を散らした。


 守護者は一歩退き、もう一本の槍を俺からセリカへ向け直す。


 単に返すだけでは、終わらない。


 『反射したのに防いだ!?』『鏡殻獣を倒した反射でも駄目なのか』という文字が、視界の端に浮かんだ。


 俺は左手を握った。


 指は動く。


 今の一撃なら、もう一度返せる。


 それより、見たかったものは見えた。


 自分の槍を防ぐために、あいつはどこへ壁を出したか。


 そのとき、剣をどちらへ残したか。


 セリカも、同じところを見ていた。


 彼女が、俺へ小さくうなずく。


「分かった」


「次だ」


 俺は、守護者から目を離さずに答えた。


     *


 残った雷槍を避け、二本とも作り直させる。


 俺たちは急がなかった。


 セリカの剣が届く位置。


 俺が、彼女の横へ壁を出せる位置。


 二人の足が、そこへ揃う。


 守護者の顔の縦線が、俺とセリカの間を動いた。


 まず、セリカが近づいた。


 風を巻いた剣へ、細剣を合わせる。


 無理に押し込まず、すぐに引く。


 守護者の剣が彼女を追う。


 俺は、その脇へ石の針を向けた。


 白銀の左肩で、雷槍が俺を捉える。


 あいつは、先ほどより近い距離まで待った。


 反射を作る暇を、与えないつもりだろう。


 俺の指先には、鏡を開くための魔力が、すでに集まっていた。


 槍が、肩を離れる。


 銀色の面が開く。


 《転鏡》。


 腕へ、先ほどと同じ重み。


 俺は足を踏ん張った。


 返す先は、守護者の脇腹。


 青い板が、その場所へ現れる。


 そこまでは、一度目と同じだった。


「今!」


 セリカが、防壁の脇へ入った。


 守護者の右肩が光る。


 残る槍が、彼女へ放たれる。


 俺は右手を上げた。


 彼女の踏み込む先へ、小さな《瞬壁》を張る。


 雷が板を叩いた。


 光が散った瞬間、俺は壁を消す。


 空いた場所を、セリカの肩が抜けた。


 彼女は、俺の壁を避けるために止まらなかった。


 いつ消えるか、分かっていた。


 守護者の剣が戻る。


 セリカの細剣へ、風の輪が触れた。


 刃が外へ押される。


 続けて、白銀の手首が返った。


 《返風刃》。


 彼女自身が、何度も繰り返した動き。


 セリカは、その風が刃を離れる直前に膝を沈めた。


 頭の上で、髪の先が揺れる。


 背後の床が、細く裂けた。


 白銀の剣は、体の外側へ伸びている。


 守っていた風の輪は、もうない。


 セリカは、そこで止まらなかった。


     *


 さらに一歩。


 守護者が剣を引き戻す。


 今度はセリカの剣に、風が巻いていた。


 戻ってくる刃を、正面から止めない。


 受けて、外へ。


 守護者の手首が流れ、その胸が開いた。


 透明な覆いの奥に、青い核。


 そこへ、小さな防壁が現れる。


 白銀の守護者は、まだ防ごうとしていた。


 セリカは、その板へ突き込まなかった。


 腰をずらし、切っ先を縁へ滑らせる。


 ほんの、手のひら一枚分。


 目の前の板が、どこまで守っているか。


 青い縁を見れば分かる。


 彼女は、俺の隣で何度もその外側を走っていた。


 青い板の端を、細剣が越えた。


 守護者の胸元に、もう一枚の壁を作る魔力が集まる。


 その前に、切っ先が透明な覆いへ触れた。


「《返風刃》」


 今度の声は、静かだった。


 受け流しに使った風が、剣先へ集まる。


 飛ばす距離は、ほとんどない。


 刃の周りの風が、触れていた一点へ叩き込まれた。


 透明な覆いが砕ける。


 その奥で、青い核に亀裂が走った。


 守護者の剣が止まる。


 作りかけの防壁が、薄い光になってほどけた。


 セリカが身を引く。


 俺はその隣へ進み、崩れてくる白銀の腕を剣で外へ払った。


 守護者が、両膝をついた。


 床に手をつこうとした指が、途中で止まる。


 顔の縦線が、ゆっくりと消えた。


 広間に、澄んだ音が響く。


 金色の光が、床を走った。


 俺は、ようやく息を吐いた。


「届いたな」


 セリカは胸の前で剣を持ち直し、それから、はっきりと笑った。


「届いた」


     *


 コメントを戻した途端、文字が視界を埋めた。


 『最後、セリカが決めた!』『壁を出したのに、その横から入った!?』『雷を防ぐ壁、消えるタイミングまでぴったりだった』と、次々に流れてくる。


 俺は映写球を、セリカも映る位置へ動かした。


「最初の反射で、相手が防ぐ位置を確かめました。次は、その横へセリカが入る」


「残った雷は、レインが防いでくれるから」


 彼女が、俺を見た。


「足を止めずに、剣まで届いた」


 『相手も同じ技を持ってたのに』というコメントが流れる。


「持っていました。しかも、うまく使ってきた」


 俺は、動かなくなった守護者を見る。


「だから、どこへ壁を出すか。いつ雷を撃ちたくなるか。その状況を、二人で作りました」


 風の技を使った後、あいつは剣を戻そうとした。


 セリカは、その戻ってくる剣まで利用した。


 教わった技を練習してきた手が、同じ技を使う敵へ届いたのだ。


 『技は覚えられても、その合わせ方までは分からんわ』『昨日の解説が今日の伏線になってる』と、文字が続いた。


 セリカが、額に張りついた髪を指で払う。


「練習では、一回目、肩を取られたんだけどね」


「二回目は、俺の胸に届いた」


「三回目で、やっと揃った」


 俺たちは顔を見合わせた。


 そこは、守護者が見ていなかったところだ。


 失敗したところから、二人で直してきた。


 俺は、配信へ向き直った。


「この連携の解説は、帰ってから。今日は、もう少し先に何があるかを見ます」


     *


 頭上の水晶が、再び光った。


 小さな鏡。


 雷を受ける青い板。


 胸元で弾ける風。


 今回使った技も、そこへ集まっていく。


 セリカが、俺の袖を軽く引いた。


「次の相手には、鏡も渡るね」


「ああ」


 俺は水晶を見上げた。


 あいつらは、俺たちが勝つたび、できることを増やす。


 なら、こちらも、相手がそれをどう使うか確かめていく。


 光は奥の壁へ入り、そのまま地下へ伸びていった。


 重い扉が開く。


 俺とセリカは剣を構え直した。


 だが、その向こうに、次の守護者はいなかった。


 細長い部屋だった。


 両側の壁に、いくつもの金属板が並んでいる。


 中央には、低い台座。


 さらに奥へ、下り階段が続いていた。


 入口の上で、新しい文字が光る。


 ヴァルトが、後ろから近づいてきた。


「第二試練、突破。第一層、開放……」


 彼は少し間を置いて、続けた。


「ここは、挑戦者の記録を閲覧する間らしい」


 俺は剣を下ろした。


「昔、ここを通った人の?」


「そう読める」


 調査員が、入口と床を確かめる。


 その後で、俺たちは中へ入った。


 壁の金属板には、見たことのない文字が刻まれている。


 そのいくつかに、剣や盾の紋様が添えられていた。


 ヴァルトは一枚ずつ目を通し、やがて、奥の板の前で止まった。


「……これは」


 声が、変わった。


「知っている名前ですか」


 彼はすぐには答えず、指で文字を追った。


 それから、板の端にある紋様を見る。


 交差した二本の剣を、六角形の枠が囲んでいた。


「アレクシス・グランツ」


 ヴァルトが、その名を読んだ。


「グランツ家の開祖とされる剣士だ。紋章も一致している」


 俺は、その姓を知っていた。


 ユリウス・グランツ。


 俺と戦い、敗北を認め、次は勝つと言った勇者候補首席。


 その家に、つながる名前だ。


 ヴァルトが、さらに下の文字を読む。


「最終到達者。第七層、最終試練突破」


 彼の指が、最後の一行で止まった。


「最終守護者への継承技能――《天断剣》」


 部屋が、静かになった。


 配信のコメントだけが、視界の端で流れ続ける。


 『首席の先祖!?』『七層まであるのか』『天断剣って、どんな技だ』。


 俺も、それは知りたい。


 だが、先に気になったことがあった。


「最終試練を突破した後に、最終守護者へ継承した?」


 ヴァルトが、俺を見る。


「そう書いてある」


「次の部屋じゃなく、最終守護者そのものを更新したんですね」


 彼は、もう一度、刻文へ目を戻した。


「その仕組みなら、次の挑戦者が最後に戦うのは……」


 言いかけて、黙る。


 俺は、奥の階段を見た。


 昨日の俺たちの技が、今日の守護者を強くした。


 この名の主が残した剣も、同じように、下で待っているのかもしれない。


 セリカが、小さく息を吐いた。


「入口だけで、終わる場所じゃなさそうだね」


「だな」


 俺は腰の剣へ触れた。


 そこへ、ヴァルトの手が伸びる。


 止められるかと思ったが、彼が示したのは、調査員の持つ写し取り用の板だった。


「まず、この記録を地上へ持ち帰る。次に進む準備は、それからだ」


「分かりました」


 俺は階段から、一歩離れた。


 そして、映写球へ向き直る。


「第二試練、攻略完了です」


 セリカが、隣へ並ぶ。


「次の調査には、聞いておきたい相手ができました」


 白い外套の青年の顔を思い浮かべる。


 自分の家の剣が、地下で誰かを待っていると知ったら、彼はどうするだろう。


 俺は、記録の最後の一行をもう一度見た。


 《天断剣》。


 随分と、大きな名前の必殺技だ。


 実際に使うところを、見てみたかった。

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