表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

それでも、大事な人。

作者: 雨多丸
掲載日:2026/04/15

「ねぇ!あれ見てみて!」


 振り返る間もなく、腕をぐいっと引っ張られる。


「ちょ、待てって——引っ張んな」


「いいからいいから!」


 半ば無理やり連れて行かれて、彼女はくるりと振り返った。


「ほら、綺麗でしょ!」


 得意げに笑う顔。


 ——少しだけ、反応が遅れた。


「おーい?」


 目の前で手を振るが、反応はない。


「……んー?」


 彼女が首を傾げる。


 考えるみたいに小さく唸ってから——そのまま距離を詰めてくる。


 こつん、と額が触れた。


「……熱は、なさそう」


「……近っ」


「なんかぼーっとしてた」


「してねぇよ」


「ほんとー?」


 距離を取ることもなく、じっと顔を覗き込んでくる。


「気のせいだって」


「そおー?」


 少しだけ間を置いて。


 彼女はふっと笑った。


「ま、いっか!」


 そのまま離れて、くるっと背を向ける。


「ほら、次あっち行こう!」


「はいはい」


「なにその適当な返事ぃ〜」


 振り返って文句を言う顔に、思わず笑う。


 釣られたみたいに、彼女も大きな声で笑った。


「アハハハ!」


「うるせぇって……」


 そう言いながら、同じくらいの声で笑っていた。


  その日——何の前触れもなく、彼女の手の甲に紋章が浮かび上がった。


  光るそれを見た瞬間、周りの空気が変わる。


「……勇者、だ」


 誰かが呟いた。


 ざわめきが広がる。


 彼女はきょとんとして、自分の手を見つめていた。


「え、なにこれ……」


 分かっていない顔。


 けれど、周囲はもう理解している。


 厄災が訪れる時、選ばれる存在。


 勇者。


 その言葉が、重くのしかかる。


 彼女は俺の方を見る。


 いつもみたいに、笑おうとして——少しだけ、うまくいかなかった。


 それからすぐだった。


 王都から手紙が届いた。


 その手紙は彼女曰く、城に入るための招待状なのだとか。


 出発の日。


 村の外れ、見慣れた道の前で、彼女は立ち止まっていた。


「迎えとか、来ないんだな」


「まぁ、そういうもんなんじゃない?」


「勇者だぞ? もうちょいこう……なんかないのかよ」


「さぁ?」


 肩をすくめて笑う彼女。


 どこか、いつもより軽い笑い方だった。


「……なんかさ」


 彼女が言う。


「実感ないんだよね」


「だろうな」


「昨日まで普通だったのに」


「今日も普通だろ」


「……そうかなぁ」


 少しだけ笑って、でもすぐに視線を逸らす。


 らしくない。


 それが、やけに分かる。


「ねぇ」


「ん?」


「どんな関係になっても——親友、だよね?」


 ほんの一瞬だけ、言葉が止まる。


 ——殺されるぞ。


 ——逃げろ。


 ——抗え。


 うるさいな。


 分かってるって。


「……?」


「今更何言ってんだよ」


「当たり前だろ」


 彼女は、少しだけ目を見開いて。


 それから、いつものように笑った。


「……そっか!」


 くるりと背を向けて、一歩踏み出す。


 そのまま振り返って、大きく手を振った。


「じゃあ行ってきます!」


「おう」


「またね!」


「ああ、またな」


 彼女は走り出す。


 いつもみたいに、軽い足取りで。


 小さくなっていく背中を見ながら、軽く手を振る。


 距離は、少しずつ開いていく。


 手を伸ばせば届く距離じゃ、もうない。


 いつもみたいに、隣に並ぶこともない。


 それでも——


 彼は、笑った。


 その約束が叶わないことを、知っていながら。




 『逃げろ』『死ぬぞ』『抗え』


 うるさいな。


 分かってるって。

初めての投稿です。

ここまで読んでくださってありがとうございました。


少しでも興味持って貰えてたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ