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息子「サンタなんて嘘っぱちじゃん」~必死すぎる父ちゃんと、僕がサンタを信じなくなった本当の理由~

いつも『帝都東京で配信中!』を応援いただきありがとうございます。


短編セレクション、「サンタはいるって証明してやる!」の後半戦、息子・悠人の視点エピソードです。


前半では父ちゃんが一人で大盛り上がりしていましたが、冷めた目で見ているはずの悠人には、実は彼なりの「サンタを信じなくなった理由」がありました。


親子のすれ違いの先にある結末まで、あと少しお付き合いください。

 12月24日。日曜日。


 今日は母さんがいなくなって初めてのクリスマスイブだ。


 イブの日がお休みだというので、今日はいろいろなところでイベントをやっているそうだ。

 でも、僕たちには関係ない。

 僕は父ちゃんにサンタさんのふりとかしなくていいよって言ってあるからだ。


 そう伝えた日の父ちゃんはうるさくて大変だった。

 どうしても僕を子どもあつかいしたいみたいだ。こまった父ちゃんである。

 でも、そう伝えた次の日からきょうまで、父ちゃんはどこかうれしそうだった。やっぱり父ちゃん、サンタのふりとかして、無理してたんだなって思う。


 クリスマスの話になると友達は家族で遊びに行くんだって話をしていて、正直うらやましい。でも父ちゃんは最近休みの日とかもなんだかずっと忙しそうだったし、今日はゆっくりして欲しい。


 そう思っていたのに、お昼を食べ終わった後、父ちゃんはこんなことを言い出した。


「悠人!今日は一緒にサンタさんに会いに行こう!」


 サンタさんなんていないって知ってるのに、父ちゃんは僕をだますのをあきらめてないみたいだ。ちょっとムカつく。


「この前言ったじゃん!サンタなんているわけないって」


 だが、父ちゃんは平気な顔をしていこう言った。


「父ちゃんだって言っただろう?サンタさんはいるんだって。大丈夫。父ちゃん嘘つかないから」


 その言葉がもう嘘ばっかりだ。

 でも父ちゃんはしつこく僕にサンタに会おうとくりかえす。結局、僕たちは出かけることになった。



 車を運転する父ちゃん。

 僕はその横で一生けんめい怒っていることをアピールし続けている。

 父ちゃんは僕が気がついてないと思ってるんだ。


「父ちゃん、僕、知ってるんだからね」

「ん?何をだい?息子よ」

「この車の荷台にサンタさんの服隠してあるんでしょ」


 どうだとばかりに言いあてる。

 でも、父ちゃんはあわてなかった。


「お!よくわかったな!やっぱり悠人はよく見てるなぁ」


 開きなおるなんて子どもみたいだ。


「そうやってサンタのふりをするつもりなんでしょ!いってんじゃん!僕はサンタの正体が父ちゃんだって知ってるって!」


 なんとなく泣きたい気持ちになる。



 知っている。サンタの正体なんて。始めから。



 父ちゃんは嘘が下手だ。


 サンタのふりをしてプレゼントをくれてるだなんて、僕はずっと前から気がついていた。

 でも、僕は知らないフリをした。

 僕をだましてるつもりの父ちゃんを逆にだましていっしょにふざけ合うのは楽しかったし、何よりだまされたふりをしていたらプレゼントがもらえるのだから。


 だから、僕はそうやってずっとサンタを信じるふりをしつづけた。ずっと。ずっと。



 そして、今年、母さんが死んだ。

 うちは、僕と父ちゃんの2人きりになった。



 それからずっと父ちゃんは大変そうだった。


 お仕事の時間をずらしたり下手な料理を頑張ったり。お金のことでもけっこう困っているみたいだった。


 そこで初めて、僕はこれまで嘘をついてもらっていたプレゼントの値段が気になってきた。

 スマホを使えるようになった僕は、こっそりプレゼントの値段を調べてーーおどろいた。


 僕は、嘘をついて、こんなに高いものをもらっていたのか。


 父ちゃんも母さんも、僕にかくれて、大変だ大変だって言っていたのに。それを僕はちゃんと知っていたのに。僕はそんなこと気にもしないで、僕が欲しいものをねだっていた。サンタさんにお願いをするふりをして。


 自分がこんなにイヤなヤツだったなんてことを、僕はやっと気づくことができたのだ。



 だから。だからだから。

 僕は、おそくなっちゃったけど、今年こそはちゃんといい子でいようと思ったのに。

 父ちゃんは、そんなことも知らずに、いつものように僕をだますつもりでいるなんて。


「父ちゃんの嘘つき!嘘つき!嘘つき!」


 くやしくって、悲しくって本当に涙が出てきてしまった。

 父ちゃんがおどろいたような顔をする。そうだ。父ちゃんは僕を傷つけたことをちゃんと知って反省すればいいんだ。

 父ちゃんはしばらくだまっていたが、やがてゆっくりと話始めた。


「そうか。悠人、そんなに泣きたくなるくらいに、色々考えてくれてたんだな…。うん、ごめんな。それをちゃんと気付いてあげられなくて」


 やっと分かってくれたのかな。

 そう思って父ちゃんの方を見ると、父ちゃんはこうつづけた。


「でもな。悠人。父ちゃん、今日は嘘なんてついていないんだよ」


 まだ、ごまかす気なんだろうか、と僕がまた言い返そうとすると、父ちゃんは先にこういった。


「なんといえばいいかな。ーーそうだ。サンタさんの正体は父ちゃんだって、悠人はそう言っただろう?でもちがうんだ。父ちゃんの正体が、サンタさんなんだよ」

「???」


 父ちゃんがまたなんかへんなことを言いだした。


「それって何がちがうのさ」

「サンタさんの正体、なんていうとさ。嘘って感じするだろ?でもそうじゃない、サンタさんは嘘じゃないんだ。サンタさんはいるんだよ」

「ーーそんなわけないじゃん。去年、プレゼントくれたのだって…」

「そう。父ちゃんだ。父ちゃんはね、クリスマスになると、サンタさんになれるんだ!」


 僕は思わず目を見開いた。

 父ちゃんが、サンタさんになる?


「クリスマスにはね、世界にサンタパワーが満ちるんだ!普段はなんでもないただの父ちゃんだけど、クリスマスの父ちゃんはサンタさんだ!みんなの力を借りて、子どもを幸せにするスーパーマンなんだ!」


 父ちゃんはそういってにやりと笑って見せた。




 *




 そういって父ちゃんが連れてきたのは、家からちょっと離れたところにある、けっこう広めの市民公園だった。

 ちょうどイベントをやっているみたいで、こんなことがカンバンに書かれている。


『クリスマスはだれだって、サンタさんになれる!』


 見れば本当に、まわりはみんなサンタさんだらけだ。


「ほら!あそこでサンタの服のレンタルをやってるんだ!悠人もサンタさんになれるぞ!あ、ちなみに父ちゃんのは特別のオーダーメイドだ!」

「……いいよ、別に」


 なーんだ、とおもう。

 けっきょく、サンタのフリじゃないか。


「こんなの、子どもだましじゃん」

「まあ、そうは言わずにさ。ほら!あそこみてみろよ!」


 父ちゃんが指さすと、そこには、「サンタさん体験!そりに乗って公園を一周」なんてカンバンが立っている。

 え?本当にサンタさんみたいにそりに乗れるの?思わずワクワクしてしまう。


「な?乗りたいだろ?先に乗っててくれよ。他のみんなもあそこにいるからさ。あとで父ちゃんサンタとして合流するよ!」


 父ちゃんはなんかよくわからないことをいい始めた。父ちゃんサンタってなんだよ。

 ただ、やっぱりどうしても気になるので、父ちゃんの言う通り先にサンタさん体験に向かってみることにする。


 行ってみると、残念なことにトナカイとかはいなかった。

 でも、大きなソリは本当にあって、それを大きな大きな馬が引いている。


「え!象みたい!馬ってこんなに大きいの?!」


 思わず僕が声を上げると、知っている声が聞こえてくる。


「お、悠人。きたか」

「浩二おじさん!」


 浩二おじさんは父ちゃんの知り合いで、たまに家族で遊びに行くことがあった。僕と同い年の芽依ちゃんって子がいて、けっこう仲が良かったりする。因みに浩二おじさんもサンタのかっこうをしていた。


「芽衣なら一個前のそりに乗っていったぞ。あとで合流してくれよな」

「おじさん、この馬なに?馬ってこんなに大きいの?」

「ああ、ばん馬っていうんだ。北海道で実際にソリを引いている馬だ。強いんだぞー」

「でもソリ引くのってトナカイじゃないんだね」

「いやいや。ソリ引く動物っていうことなら、世界的には馬の方がメジャーじゃないかな?少なくとも日本のサンタさんたちが乗るのは、別にトナカイである必要なんてないからな。悠人も乗ってきな!」

「いや、僕は別に…」


 なんか、父ちゃんが連れてきたイベントで楽しんでしまうと、なんとなく負けたみたいな気持ちになりそうで思わずことわってしまった。


「遠慮するなするな!乗ってみたら意外と面白いぞ!味わっていきな、一風変わった俺たちのサンタっぷりをな」



 いわれた通り、馬が引くそりに乗るのは思っていた以上におもしろかった。

 大きな馬の一歩がそのままつたわってそりがグンと進む。グングングン。後ろから見える馬の大きな背中がなんだかとってもカッコいい。クリスマスだとかサンタっぽいかというと別にそんなことはないけれども、そんなこと気にならないくらい楽しむことができた。


 ソリから下りると、芽依ちゃんがまっていて、一緒に他の出し物を回ることになった。本当にいろいろなイベントをやっている。スノードームの作成だとか、クリスマスツリーの飾りつけだとか。


 そんななかドローンショーなんて変わったものもあった。これも父ちゃんの友達の和人おじさんが企画しているイベントらしい。


「おー、悠人くん、芽依ちゃん!もうすぐ次のショー始まるぞ。見てきな」

「和人おじさんもサンタさんなんだね。おじさんこういうのやらないと思ってた」

「それなー。まあ、普段はこんなことやらんのだが、トシにあてられてな。柄になく張り切っちまった」

「なんでこんなことやることにしたの?サンタのフリだなんて」

「悠人くん、それはちがうぞ。サンタのフリじゃない、俺たちは本当にサンタなんだ」


 和人おじさんまでそんなことを言い出すんだ。


「だって空飛ぶソリとかそんなのーー」

「そ。俺はサンタだが、別に空飛ぶソリなんて乗ってない。でもな、その代わり、俺には俺にしかできないものがある。それぞれ皆自分ができる精一杯で子ども達を楽しませる。それが俺たちサンタだ。まあ見て行けよ。空飛ぶソリなんて目じゃないぜ?」


 そういって、はじまったドローンショーは、確かにすごかった。

 たくさんのドローン1台1台が光ながら空いっぱいに広がって、その編成を変えながらいろいろな姿を浮かび上がらせる。クリスマスツリーになったと思ったら、サンタクロースになったり。そりの形になって飛び回ることもあった。たしかに、これは本当のサンタさんでもできないんだろうな、と僕はそう思ったりした。



「たのしんでるかー!悠人ー!」


 ドローンショーが終わったタイミングで、父ちゃんがあらわれた。ひときわ気合の入ったサンタのかっこうをして、さらに大きなふくろをかついでいる。他にもたくさんの大人が同じようなかっこうをして集まってきている。


「さあ、子どもたちのみんな!待ちに待ったプレゼントの時間だよ!」


 その一言に僕くらいの子どもはみんな大喜びする。隣では芽依ちゃんも大はしゃぎだ。


「芽依ちゃん、あれサンタさんじゃなくて僕の父ちゃんだからね?」


 ちょっとそのテンションに不安になってこっそりそう教えてあげた。


「え?プレゼントくれるんだし、悠人のお父さんだって別によくない?」


 あっけらかんとそういわれて僕はちょっとショックを受ける。


 そういうものなんだろうか。

 だってあれはサンタさんじゃなくて父ちゃんだ。だからあそこで配っているプレゼントだって父ちゃんたちが準備したものってことになる。

 そんなもの、僕がもらっちゃって大丈夫なんだろうか。父ちゃんはいつも以上に無理をしちゃっていないだろうか。


 そんな不安をよそに父ちゃんはノリノリでみんなにプレゼントをあげている。


「さあ、悠人!父ちゃんサンタから、悠人にもプレゼントだよー!」


 あいかわらずの調子でちょっとイラっとする。


「僕はプレゼントいらないって言ったじゃん!」


 みんながいる場だというのに、思わずそういって怒ってしまった。空気が読めていないのが自分でもわかってつらくなる。

 でも、父ちゃんは気にしていない。


「悠人が言ってたのは、父ちゃんからのプレゼントだろ?でもこれは違う。サンタさんからのプレゼントだ。いい子にしてた悠人へのプレゼントだから遠慮しなくても全然いいんだ」

「でもこれだって父ちゃんが準備してーー」

「大丈夫。本当に、父ちゃん無理してないから」


 父ちゃんはそういって、僕にプレゼントを渡してくる。

 つい、そのままプレゼントを受け取ってしまった。


「いったろ?これはサンタさんからのプレゼントだ。サンタになりたい大人たちみんなにネットとかご近所さんとかに呼びかけてなー。こうやって大人がサンタさんになれるイベントを用意したんだ。みんな思い思いのやり方でサンタさんになる。子どもたちに自分なりのプレゼントをあげるんだ。

 だからこれは特に父ちゃんが無理して用意したものじゃない。クリスマスの日だけサンタさんになったみんなからの、悠人へのプレゼントだよ」


 父ちゃんはそういって僕の頭をポンポンたたく。


「メリークリスマス、悠人」


 そういわれて頭の中が真っ白になる。


 うれしいんだか、くやしいんだか分からない。鼻がツーンとして、目がどんどん熱くなる。

 僕はもらったプレゼントを胸に抱えると、その場から逃げ出してしまった。


「悠人!」


 背中の方で父ちゃんが呼ぶ声がするけど気にしない。とにかく一旦どこか父ちゃんの見えない場所に逃げ込みたかった。




 *




 何も考えず逃げ込んだ先は、なんだか暗い部屋の中みたいなところだった。


 その中では、いろいろなかたちをした人形にたくさんのランプがついていて、それがついたり消えたりをしながら浮かび上がって見える。光のショーみたいだ。


「おや、お客さんですか。ここでもお客さんがあんまり来ないな、とおもっていたところなのでありがたいことです。どうぞクリスマスならではの幻想的なイルミネーションをお楽しみください」


 そこには、前に連れて行ってもらったことがある喫茶店でマスターをしている人が1人座っていた。


「おや。誰かと思えば、確か悠人君でしたね。1人ですか?お父さんとかお友達とかが一緒のはずでは?」

「あ、あの、僕は……」


 思わずプレゼントを強く抱きしめてしまう。

 あまり、聞かれると困ってしまう。僕自身なんで自分が逃げ出したかわかっていない。だけどいま、父ちゃんを呼ばれるのはいやだった。

 そんな様子はマスターさんは黙ってみていたが


「……よくわかりませんが、まあとりあえずゆっくりしていってください。私は別に何かするつもりはありませんので」


 そういって、僕から視線を外した。特に父ちゃんを呼んでくるとかはしないらしい。なんとなくほっとした。

 とはいえ、ここに逃げ込んできたもののこれからどうしたらいいかわからない。外に出ていって父ちゃんに見つかるのはいやだが、かといってこのマスターさんと一緒にいるのもなんとなくソワソワしてくる。

 特にマスターさんと話をしたこともない僕は、仕方なくこの部屋のイルミネーションをぼんやりと見ていることにした。


 よく見ると、けっこうこっている。ただサンタさんの人形を集めて光らせているのではなく、天井とか床とかにもいっぱいライトがついている。天井のライトはときおり流れ星のようにサーっと動いていくし、ソリみたいなものが走っていくこともある。足元のライトはまっしろで照らされた床がまるで雪みたいに見える。ときどき、生きた火の玉みたいな光があたりを飛び回るみたいな演出もあって、本当にどうやっているんだろう、って思ってしまう。


 そうやって僕はぼーっとその光をながめていると


「……どうですか。楽しめていますか?このイベントは」


 マスターさんがぼそっとそんなことを聞いてきた。


「……はい」


 正直に言う。楽しかった。

 普段見たこともないようなものがいっぱいあって、いつもとは違うクリスマスを僕はめいいっぱい楽しんでしまった。


「そうですか。まあそれならいろいろと面倒をかけられた甲斐もあったということですね」

「……あの、うちの父ちゃん、迷惑をかけちゃったんですか?」

「おや。本当にいろいろ気にされているお子さんなんですね。敏夫さんの息子さんとは思えないですねぇ」


 マスターは意地悪そうにそんなことを言うと


「まあ、もちろんいろいろ面倒はかけさせられましたが、まあこうやって外で営業をするのも悪くはありませんからね。それに、あの人自身が一番面倒を引き受けていましたし、いいんじゃないですか」


 その言葉を聞いて胸がチクリとする。


「…やっぱり父ちゃん無理をしてたんですか…?」

「無理かどうかは知りませんが、苦労はしたんではないですか?こんなイベントを企画して、人集めて、場所押さえて、資金繰りして。この1か月は大忙しだったみたいですねぇ」


 それを聞いて、がまんしていた涙が一気にあふれてくる。

 イルミネーションの光が涙でにじんで、何を映し出しているのかわからなくなった。


「おやおや。ここで泣き出しされるんですか。いろいろ抱え込んでいるみたいですねぇ」


 マスターさんは、まるで映画の感想をいうみたいに、ひとごとみたいにそういった。僕が泣きだしても、あんまり心配とかしないみたいだ。変な大人だと思う一方、そんなそっけない態度が気楽に思えて、なんとなく安心するみたいな変な気持ちがした。

 だからだろう。僕はつい気持ちを言葉に出していた。


「僕は父ちゃんに無理はしてほしくなかったのに…。けっきょく今年も無理をさせちゃった…!」


 サンタさんなんて信じないといったから、父ちゃんは意地を張ってより無理をしちゃったのだろうか。

 僕はけっきょく父ちゃんにわがままを言っただけだったんだろうか。


「無理無理といいますが、別に敏夫さん、無理していなかったと思いますけどねぇ」

「でも、さっき、マスターさんは、父ちゃんがいろいろたいへんだったって」

「別にそれは無理じゃないらしいですよ?」


 マスターさんまでよくわからないことを言い出した。

 大人はどうして急に変なことを言い出すんだろう。


「父ちゃんいつも大変だ大変だって言ってるのに、そんななかこんなイベントまで準備して、それが無理じゃないっていうんですか…?」

「本当にやりたいことがあって、それを実現するために頑張る。そういうとき、人間って逆に力がわくんですよ。不思議なことに」


 力がわく。

 そんなことがあるんだろうか。

 まるでそれじゃ父ちゃんが言ってたあの適当な言葉みたいじゃないか。


「サンタパワーってことですか…?」


 僕がそういうとマスターはちょっと笑った。


「それ、絶対敏夫さんの言葉ですよね。あの人本当に子どもみたいなこと言いますね。――でも、そうです。サンタパワーですよ。その力を借りてみんなサンタになるんです。クリスマスは、誰だってサンタになってもいい日なんだって、あの人は言ってましたね」

「サンタになってもいい日?」

「そう。本当に不思議なことなんですが、今日集まった大人たちはみんな、サンタさんになりたいんです」


 サンタになりたい?

 そんなことがあるんだろうか。だってそんなの大変でしかないというのに。


「なりたい理由は人それぞれです。子どもたちに喜ばれたい。自分の子供にいいところを見せたい。何かに尽くしている自分でありたい。あとはそうですね――いつもいろいろ我慢して、一生懸命頑張っている愛しい家族に、自分のできる何かをしてあげたい、とかね」


 ーーーメリークリスマス


 父ちゃんのさっきの言葉がよみがえる。


 そうだったのか。

 父ちゃんはあの時、うれしかったのか。


 さっきまでとは違う、あつい気持ちがあふれてくる。

 涙が次から次から出てきて止まらない。


「父ちゃんのバカ!バカ!バカ!」


 よくわからない気持ちの中、僕はそう叫ぶ。


「僕だって!僕だって、父ちゃんに何かしてあげたいのに!」


 だから父ちゃんを楽にしてあげたかったのに。それが僕にできるプレゼントだったのに。

 また父ちゃんからプレゼントをもらってしまった。


 うれしい。うれしいのにくやしい。


 大人はそうやってサンタになれる。子どもの僕は、父ちゃんに何もしてあげられない。


「まったく、人の話を聞かないところは敏夫さんそっくりですねえ」


 マスターさんはそういって僕のところにやってくると、僕にチラシをさっと手渡した。


「いいですか。クリスマスは、()()()()、サンタさんになっていい日です」


 僕はマスターさんのいいたいことを理解する。でもーー


「でも、こんなの別にーー」


 そう言いかけるぼくの言葉をマスターさんはさえぎる。


「覚えておいてくださいね。プレゼントってね。もらったら誰でもうれしいものなんですよ。それはもちろんーーー大人でもね」






★☆★☆★☆★☆★☆★☆





「楽しかったなー!悠人!」


 僕はそういって悠人の方を振り返った。悠人は素直に


「うん。楽しかった」


 とはっきりした口調で答えてくれた。大成功だ。

 途中、悠人がなぜだか逃げ出していってしまった時は本当に焦った。公園内で放送をかけてもらおうかと思った矢先、マスターから悠人はマスターのところでイルミネーションを楽しんでいるから大丈夫だと連絡が来た。そのあと戻ってきた悠人は特におかしな様子もなく、普通に芽依ちゃんと一緒に、さらには和人さんのところの子どもも交じって楽しそうにイベントを駆け回ってくれていた。


 帰ってくるときには、悠人は僕があげたプレゼント以外にもいろいろまわって手に入れた戦利品でいっぱいになっていて、車で来てよかったとしみじみ思ったものだ。


「…父ちゃんもさ。楽しかった?」


 悠人がそんなことを聞いてきた。


「楽しくないわけないだろう!だってサンタさんだぞ!」


 そう。この日の僕はまさにヒーローだ。子どもたちに喜んでもらい、悠人に楽しんでもらい、イベントの仲間たちからもねぎらいと称賛の声をもらうことができた。

 まあ、この後悠人を家に送り届けた後、面倒くさい後片付けが待っているが。

 それでも。やってよかったと、心からそう思える一日だった。


「な?本当だっただろ?サンタさんはいるって。父ちゃんは嘘はつかないんだ!」


 僕が自信満々で悠人にそう聞くと


「うーん、でも瞬間移動したりスーパートナカイさんにのるサンタさんはいなかったよ?」


 なんていってくる。

 息子よ。そういう適当な僕の発言は速やかに忘れなさい。


 まあ、それでも。

 そういう悠人の顔が笑顔になっていたことが、僕が何より嬉しかった。




 *




 さて。これで終わると思ったら大間違いだ。


「ふふふ。寝てしまったようだな…!悠人よ…!」


 クリスマスの夜が深まった時間、僕こと、サンタさんは動き出す。


 そう。散々、昼間のイベントで僕という偽サンタを見せ続けてきた。プレゼントまであげた。

 ここまでしたら、きっと僕は僕自身がプレゼントをあげることをあきらめたと、悠人はそう考えるだろう。

 そして、クリスマスの朝。目を覚ますと、なんとそこには!僕からのプレゼントとは違う、別のプレゼントがある!


 ここまですれば、きっと悠人は、これは、僕からのものではない、本物のサンタさんからのプレゼントだと思うだろう!


 ふふふ。我ながら完璧だ。

 この計画の真なる目的は浩二さん和人さんにも話していない。あとで打ち明けておどろいてもらうのだ。

 この、サンタさんの夢を再び作戦の完璧さ、こんな素晴らしい作戦を思いつく僕の頭脳が我ながら恐ろしい…!

 悪賢い大人で済まない悠人よ!

 だけど僕は、僕自身のプレゼントをちゃんと悠人にあげたいのだ!!


 などと悦に入りながら、僕はこっそりと悠人の部屋の様子を確認する。

 大丈夫。静かな寝息が聞こえてくる。悠人はイベントで疲れていつもより早く寝てしまったようだ。

 ふっ、これも作戦のうちなのだよ、悠人君。

 僕は音をたてないようにドアを開けると、こっそりとこっそりと悠人のベットに近づいていった。









 そこには。

 なぜかプレゼントが置いてあった。








 いやおかしい。

 僕はまだ、プレゼントを置いていない。まさか本物のサンタさんが僕に内緒で勝手にプレゼントをあげてしまったというのだろうか。

 などと脳内で適当なことを考える。


 いや違う。


 この梱包、今日のサンタイベントで使っていた梱包と同じものだ。なんのイベントだっけと思いながら見ていると、プレゼントの下に何か手紙のようなものがおいてあることに気が付いた。


 その手紙には、悠人の文字でこうあった。










「あきらめの悪い僕のサンタさんへ

 僕からのプレゼントをもらってください」









 ガンッと頭をたたかれたような衝撃が僕を襲った。


 おいてあるプレゼントを拾い上げる。

 そして出来るだけ丁寧にその梱包を解いていった。


 中にあったのはスノードームだ。


 そういえば、今日のイベントの中にスノードームを作るみたいなものがあったなあ、なんてことを思いながら―――僕の視界は涙でぐしゃぐしゃにゆがんだ。


 そこには、笑ている悠人を模した人形と、すぐそばにはサンタのかっこうをした僕の人形がいる。他にも浩二さんや和人さん、芽依ちゃんや、マスターの姿もあったりした。そんななか、僕と悠人はひっそりと身を寄せ合って、とにかく楽しそうに笑っている。


 さらに、箱の中には先ほどの手紙とは違うクリスマスカードが入っていた。










『父ちゃん いつもがんばってくれてありがとう メリークリスマス』










 悠人はきっと分からないだろうな。


 このプレゼントが、僕にとってきっと一生の宝になるなんて。


 父ちゃんサンタは、仲間の力を借りて、大人の力を総動員して、悠人にプレゼントを届けたわけだけど、そんなものじゃ全然届かない、最高のプレゼントをもらってしまった。


 こんなすごいプレゼントをくれるだなんて、悠人サンタさんは、僕よりずっと優秀らしい。




 ああ。


 きっとこの何もかもを祝福したいそんなときのため、この言葉はあるんだな。

 僕はそう思いながらつぶやいた。





「メリークリスマス」

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


「サンタは本当にいるの」という質問に対する、私なりの回答でした。


ちなみに、この作品で出てくる喫茶店のマスターですが、あちらは私が別に書いた短編「忘却クラブ」に出てくるマスターです。こういう、シェアード・ワールド、一度やってみたいなということもあって登場させてみたら案外いいキャラクターになりました。


こういういたずらは他でもまたやってみたいですね。


では、別のお話でお会いしましょう。

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