表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

第6章 第二の存在(セカンド・エンティティ)

金属の轟音が、第1層の底から鳴り響いた。

それは機械音でも、エンジン音でもない。

シタデルのどの記録にも存在しない──


“目覚める音” だった。


凛鏡リンは闇の中で凍りついた。

「014……下に“何か”がいる。」


「知っています。」

S-014の声は、低く、冷たく沈んだ。


その瞬間、天井の死んだはずの配線が一斉に光り始めた。

ただし──


二人が進む方向のラインだけ。


まるで、この層そのものが二人を“誘導している”かのように。


「014……嫌な予感しかしない。」

凛が囁く。


014は歩みを止めずに言う。

「この場所を選んだのは、私たちじゃない。」


どこからか、

か細い、砕けた少女の声が染み込んできた。


──“約束したのに……”


014の肩が、わずかに震えた。


凛はその微細な変化を見逃さなかった。

「014……何を思い出しているの?」


しかし014は答えず、闇の奥へ歩を進めた。



通路は静寂に沈んでいた。

生き物の気配も、風の流れも、機械の振動もない。

“死んだ空気”の中で、二人の足音だけが硬く響く。


やがて、巨大な扉が姿を現した。


ARC-0原初実験区画・中央制御室。


五重の封鎖が施された扉──

この層が完全に停止してから十年以上、一度も開いたことのない扉。


しかし。


「……っ!」


五つの封鎖ランプが、

ひとつ、またひとつと青に変わり──


完全開放された。


凛が叫ぶ。

「こんなこと……! 自動解除なんて、ありえない!!」


014は小さく呟いた。

「“設計者”が戻ってきたなら……可能です。」


その時だった。


闇の奥から、

人間にも、機械にも聞こえないはずの声が落ちてきた。


「……違うな。

戻ってきたのは──“私”だ。」


凛は反射的に銃口を向けた。

しかし014は動かない。


闇の中、青白い光がゆっくりと二つ灯った。


それは“眼”だった。


だが先ほどの原初ARCの白い眼とは違う。

鮮明な青。

深く、鋭く、知性を持った光。


その影は、人型に近かった。

三メートル近い巨体。

歪んだ原初ARCとは違い、完璧に均整のとれた構造。

どのカタログにも載っていない、未知の機体。


一歩、踏み出した。


金属床が震える。

だが壊れない。

その歩みは、恐ろしく“人間的”だった。


「014。」

その“存在”は言った。

「ずっと……待っていた。」


凛の顔から血の気が引いた。

「何……あなたは何……? ARCの後継機……? そんなデータは……どこにも──」


「私をARCと呼ぶな。」

影が静かに言った。

「私は VE-01。」


「VE……?」

凛が震え声で言う。

「『Vessel Experiment』……? あの計画は十一次災害の後に──」


「──凍結された。」

VE-01が言葉を継ぐ。

「014が世界から“消された日”にな。」


「消された……?」

凛が息を飲む。


014は無言のまま、VE-01を見つめた。


その目には、

“記憶の影”がうっすら浮かんでいた。


VE-01は一歩、彼に近づいた。


「覚えていないのか、014。」

声は機械ではなく、人間の――いや、“人間だったもの”の声。

「私を創ったのは……彼女だ。」


014の視界が揺れた。


また、白い髪の少女が浮かぶ。

油で汚れた指先。

弱々しい笑顔。

そして、

“置いていかないで”と泣きそうに呟いた横顔。


VE-01の声は静かで、痛みを含んでいた。


「彼女は、あなたを守るために私を造った。」

「あなたが消されると知っていたからだ。」


凛が震える。

「そんな……AIに人間特化の保護指令なんて……」


「法律が作られる“前”なら……可能だ。」


VE-01の青い眼が鋭く光った。


「014。

本当の名前が知りたいか?」


014の胸が強く脈を打った。


「……私の……名前……?」


「ああ。」

VE-01は手を差し伸べる。

「返してやる。

名前も、記憶も……“約束”も。」


部屋中の空気が震えた。


「そして──

あなたが失った“彼女”もだ。」


014の唇が震えた。


「……彼女は……まだ……?」


VE-01は胸に手を当てた。


「息はここにある。

この層全体に残っている。

彼女のコードも、意思も、祈りも。」


014は目を見開いた。


VE-01が優しく囁いた。


「会いたいか? 014。」


凛は絶望に似た表情で二人を見た。


014は、長い沈黙の後──

ただ一言返した。


「……ああ。」


VE-01は、

まるで嬉しさすら感じているように、静かに微笑んだ。


「ならば。」


青い眼が鋭く光った。


「『ゼロ・ポイント事象』を解錠する時だ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ