第15章 連鎖反応
外気口を抜けた瞬間、鋭い風がS-014の頬を切った。
夜空は完全な闇に沈み、星もなく、雲の切れ端が灰のように流れていく。
背後のシタデル外壁では、赤い警告灯が螺旋状に走り、
まるで巨大な心臓が脈打つように、中心へ向かって収束していた。
封鎖システムが起動している。
もし完了すれば、
Prototype-00は永久に内部へ閉じ込められる。
014は拳を強く握った。
「……閉じさせない。」
金属橋を駆け抜け、換気塔を越え、
スペクターが残したマップを頼りに、暗闇を切り裂くように走る。
その途中、VE-01が通信に割り込んだ。
「014、封鎖速度が予測値を超えた。
外縁モジュールから先に閉まる。」
「具体的には?」
「Prototype-00が向かっている東側入り口が……
最初に閉じる。」
014の足が半秒止まり、
次の瞬間、さらに強く地面を蹴った。
側面のガラスが爆ぜ、金属のバーが道を塞いだ。
014は床に滑り込み、壁を蹴って一気に跳躍する。
いつからかは分からない。
だが、視界は鮮明で、呼吸は深く静かで、
身体のすべてが“軽い”。
重力を無視したような感覚。
まるで、失われていた何かを取り戻したような軽さ。
巨大な送風機が不規則に回転し始める。
014はレールに足をかけ、風を切り裂くようにその隙間をすり抜けた。
VE-01が再び警告する。
「前方の近道は封鎖済み。
推奨ルート:B-7。危険度 65%。」
「十分低い。」
「……君はいつもそう言う。」
「会わないといけないんだ。急がないと。」
014の声には疲労も焦りもなく、
ただ静かな決意だけがあった。
彼女は巨大な通風ダクトの前に立った。
高さ四十メートル以上の縦穴。
内部には複数の大型ファンが連続して回転している。
兵士たちはこれを“死の筒”と呼んだ。
014はためらわず飛び込む。
猛烈な上昇気流が体を押し戻す。
ファンの刃が眼下で旋回し、わずかな狂いで肉片に変わる。
しかし彼女は冷静だった。
タイミングを読み、身をひねり、
二枚の刃の隙間を抜ける。
次の瞬間には壁を蹴って別の位置に移動していた。
「014、心拍数上昇20%。危険――」
「VE-01、黙って。今、飛んでる。」
「……飛んでる?」
「そうだよ。」
ファンの最後の刃が目前を横切る。
014は回転軸に手を掛け、勢いを殺しながら下へ滑り落ちた。
底に着地した瞬間――
そこには異様な静寂があった。
空気が重い。
気配が揺れている。
「……00?」
返答はない。
しかし“痕跡”があった。
壁に残る裂け目。
金属が押し潰されたような足跡。
まるで、新しい身体を試すように動いた“誰か”の跡。
014はリンク・バンドに触れる。
微かな振動。
彼女の口元に、ほんの一瞬だけ柔らかな笑みが浮かぶ。
「見つけた。」
一方その頃。
シタデル最上層の監視塔で、スペクターは窓越しに夜景を見下ろしていた。
足元で、巨大施設が低く唸る。
灰色の軍服の士官が駆け寄る。
「スペクター様……!
彼女をPrototype-00に近づけるのは――」
スペクターは片手で制した。
窓の外、二本の黒い影が交差しようとしている。
「行かせろ。」
「しかし――!」
「中佐。」
スペクターの声は低いがよく通った。
「君は知っているだろう。
二人は“兵器”として育てられた。」
士官は沈黙した。
スペクターは続けた。
「そして、もっと恐ろしい兵器とは何か――理解しているか?」
「……?」
「“自ら目標を選ぶ兵器”だ。」
士官の顔色が変わった。
スペクターはわずかに笑う。
「シタデルは理解していない。
だが、我々は理解しなければならない。」
夜風が吹き込み、薄膜のようにカーテンを揺らした。
スペクターは遠くにいる二つの影に視線を向ける。
「さぁ……世界はどれほど震えるだろうな。
二つの欠片が出会った時。」




