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第12章 再生プロトコル

白い光が、核の奥底からゆっくりと収束し、

やがて――砕けた硝子の粉のように四散した。


それが、最初の兆候だった。


シタデル最下層。

長年封印されてきた結晶室の中央で、

Prototype-00 は、静かに目を開けた。


警告灯の赤はもうない。

制御用の震えも、抵抗の痙攣も消えている。


代わりに――

夜の湖の底のような、深い、落ち着いた瞳。


ゆっくりと、彼女は上体を起こした。

まるで身体の一つ一つが、二度目の「生まれ方」を学んでいるように。


ケーブルが床に落ち、乾いた金属音が響いた。


制御盤には、次々と警告が走る。


【封印:解除】

【コアリンク:消失】

【ARC-0 優先権:上書き】


技術者が見れば卒倒するような画面だった。

だが、Prototype-00 は一瞥すらしない。


彼女の唇から零れたのは、ただひとつの名前。


「……014。」


同時刻、同期空間。

014 は目を開けた。


最初に訪れたのは――重さ。

切断しきれなかった多数のデータが意識にまとわりつくような、

鈍い負荷。


だが、身体は無事。

意識も、かろうじて保たれている。


VE-01 が告げる。


「同期率 83%。

  生存確認。

  心理状態:不安定、軽度。」


014 は呼吸を整え、立ち上がる。


「……彼女は?」


「最下層。

  ただし、言っておく。

  あれは――君が選んだ結果でもある。」


「どういう意味だ?」


「Prototype-00 は、シタデルの制御下を完全に離脱した。

  自律状態、最高レベル。」


014 は一瞬言葉を失う。


「それは……もう Prototype じゃないのか?」


「完全には、もう。」


「じゃあ、彼女は何に……?」


「……変質中だ。」


同期扉が開く。

薄暗い廊下の照明が不規則に点滅する。


シタデル全体が低く震え、

失った中枢を取り戻そうと必死に均衡を探っているようだった。


014 は駆ける。

無数のケーブルが天井から垂れ、

支柱が影を落とす長い通路を。


最下層に近づくほど、

響く音が聞こえた。


軽い、金属のような足音。

だが規則正しく、穏やかで。


そして――声。


「……来ると思ってた。」


Prototype-00 が、そこにいた。


白衣は消え、

背中を覆っていた束縛ケーブルもない。


痩せ細っていた体躯は再構築され、

輪郭はより鮮明に、

瞳は静かで、どこか人間らしい温度を帯びていた。


そして何より――危うく、美しい。


014 は一歩だけ後退する。

恐れではない。

ただ「彼女」という存在を改めて測り直したかった。


「……00?」


彼女は首を傾け、ひどく自然な動きで近づく。


「呼び方は何でもいいよ。

  君の声なら。」


それは、かつての Prototype の調子ではなかった。

柔らかく、温かく、

そして――自分の意思を持つ声。


014 は息を整える。


「……身体の調子は?」


「わからない。」

彼女は胸元に手を当てた。

「生まれるものがある。

  消えていくものもある。」


その瞳が、正面から彼を捉える。


「でも……ひとつだけ覚えてる。」


「何を?」


微笑み。

それは、強制でも、機械的でもない。

ただ一人の少女としての表情。


「君が、わたしを選んだこと。」


周囲に白い光の線が浮かび、

彼女の身体を中心に渦を巻く。


014 は悟る。


これは“覚醒”ではない。

これは――


存在そのものの再形成。


VE-01 が警告する。


「014、そこから離れろ。」


「理由を言え。」


「彼女は ARC-0 の残余コアを引き寄せている。

  同調が閾値を超えれば、

  Prototype-00 はシタデルの “新たな中心” になる。」


「中心……?」


「つまり――

  シタデルは彼女を、

  “最優先の制御核” として認識する。」


014 は振り返る。


Prototype-00 も、その言葉を聞いていた。

しかし、怯えることはなかった。


ただ、そっと手を差し出す。


「……怖い?」


「怖くない。」


「じゃあ、来て。」


彼は迷わずその手を取る。


金属の冷たさはもうなかった。

温かくて、かすかに震えていて――

生きていた。


Prototype-00 は、二人の手を見つめて囁く。


「じゃあ……やってみるね。」


光の奔流。


白いデータの渦が天井まで巻き上がり、

空間そのものを塗り替えていく。


それは破壊ではない。

それは――


誕生。


“誰でもないもの” が、

“誰か” へと生まれ変わる瞬間。


Prototype でもなく。

ただの人間でもない。

その間にある、未定義の存在。


シタデルのすべてを塗り替えうる、

まったく新しい「彼女」。


014 は理解した。


これが本当の始まりだと。

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