表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/35

第10章 プロトタイプ解放

円形室内には、

結晶槽クリスタル・チャンバーから放たれる赤い微光だけが漂っていた。


それは静寂ではなかった。

“生を拒まれた空間”だけが持つ、

重く冷たい沈黙だった。


014はガラスに触れたまま、

内部で膝を抱える少女──Prototype-00を見つめていた。


少女はわずかに顔を上げる。


その瞳は、十一年前のあの青。

だが、そこに宿る光はもう人間だけのものではなく、

記憶の断片とデータが混ざり合った、不安定な輝きだった。


「……覚えているのか。」


014の声は低く、震えていた。


Prototype-00はまぶたを閉じ、

そして、かすかに微笑みながら言う。


「覚えている……でも全部じゃない。

   残っているものと……消えたもの……

   そして、思い出すのが怖いものもある。」


「怖い……?」


「うん……

   その記憶は、“わたしを殺したもの”だから。」


空気がきしむように冷えた。


「……事故じゃなかったのか。」


少女は静かに首を振る。


「事故じゃない。

   “排除命令”だったの。」


014の頭に、砕けた光景が閃く。

警報。

白光。

誰かの絶叫。

倒れていく白い影。


Prototype-00はその記憶をなぞるように呟いた。


「でも……わたしは死にきれなかった。」


014は目を見開く。


「……どういうことだ。」


「肉体は失われたけど……

   わたしの意識は逃げたの。

   一部はARCへ……

   一部はVEへ……

   そして最後に、この零層に沈んだ。」


彼女は胸を押さえる。


「全部バラバラになって……

   全部繋がれなくて……

   もう“わたし”じゃなかった。」


けれど──


Prototype-00は、

涙のように揺れる笑みを見せた。


「でも……あなたが来てくれたから……

   わたしはもう一度“わたし”になれた。」


014はガラスに手を当てる。


「この扉……開けられるのか。」


少女は自分の腕を見る。

青白い光のコードが、彼女の存在を拘束するように脈打っていた。


「わたしには開けられない。

   この結晶槽は、わたしがARCへ戻らないように封印されてる。」


「ARCへ……戻る?」


「わたしは、本来“起動核コア”になるはずだったの。

   ARCの心臓になるための……器。」


014は息を呑む。


「じゃあ……どうすれば解放できる?」


Prototype-00は床へ視線を落とす。


「コア制御器コントロール・キーが必要。

   場所は……この部屋の“下”。」


床中央の円環が、冷たく輝いていた。


少女は不安げに問いかける。


「……いくの……?

   わたしのいちばん深い場所へ……?」


014は迷いなく答える。


「行く。

   君を取り戻すために。」


Prototype-00は

ガラス越しにそっと手を伸ばした。


「……ありがとう……

   あなたの声が……

   わたしを“ここ”につなぎとめてくれる……」


014は静かに言う。


「もう二度と……君をひとりにはしない。」


その瞬間、

足元の円環が青白く発光し、

金属板が回転しながら開いていく。


深い縦穴が、

静かにその口を開いた。


VE-01の声が遠くから響く。


「……進め、014。

   そこが“コア”への入口だ。」


014は最後にPrototype-00を見つめ、

深く息を吸った。


そして、


闇へ――飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ