第五話 動機
太郎が出て行ってから暫く気まずい沈黙が流れた。
「どうなのかしらあの態度」
田中が切り出すと深田が肩を竦める。
「創作のミステリーならまず、間違いなく最初に餌食にされるだろうね」
「でも、現実では悪い手ではないと思いますぜえ」
冷静に彼の行動を議論し合う三人、とはいえこのまま話題が続いて悪い方向に話が進むのは愛花にとって居た堪れなかったので、彼女は切り出した。
「あの、私達が罪人ってどういうことでしょうか? 」
「それ、私も気になっていたの。失礼しちゃうは全く」
田中が真っ先に食い付いた。
「いや、そこは簡単でしょう。悪の反対は悪。裏から見れば表は裏、みてえな話で犯罪がしたい悪人からすればそれを暴く探偵は悪ってことでしょう」
「確かに、そういう見方は出来る」
菅野の考えに深田が賛成を示す姿を見て話題転換に成功したと彼女は胸を撫で下ろした。
「そうですね」
と答え話題を終わらせると深田が口を開いた。
「それより、これからどうしようか。殺人事件が起きた以上、我々で寝ずの番をするか、個室に帰るか。こうなった以上運営側としているのではなく古川さん達の意見を伺いたいものだが……」
「ワタクシですか、ワタクシは皆様個室に入り鍵をかけるのが安心と考えます」
「それはそうだけど、秘密の抜け穴とかはないのかしら? 」
「それは存じておりませんが、把握している限りでは存在しないかと」
「なるほど、それなら安心ね。今夜は皆それぞれの部屋に帰って休むことにしましょう、おやすみなさい」
田中は付き物が落ちたかのように笑みを浮かべると部屋を出て行った。残された愛花達も言葉すら交わさなかったが、同じように部屋に戻り鍵をかけた。