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第四話 罪人達

 太郎は部屋割りで指定された部屋へと入る。室内は洗面所にトイレ、テレビにベッドに机と椅子、ベランダにはすぐ側の海が見渡せるバルコニーとホテルに使われているだけあって一式揃っており数日過ごすには退屈しなさそうだった。またミステリーナイトで推理するためだろうレポート用紙と数本のペンが机の上に置かれていた。


 ……なんか学生時代を思い出すな。


 レポート用紙とペンからレポートに追われた学生時代を連想した彼は逃げるようにベッドに倒れ込む。


「……といけない、春奈に連絡しないと」


 呟きながらスマートフォンの画面を見る。画面の右端には圏外と表示されていた。


「圏外か、参ったな」


 太郎はまさかの事態に頭を掻いた。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 いつの間にか眠っていたらしく数時間後、コンコンと扉を叩かれた。


「お食事の用意が出来ました」


 太郎は言われて咄嗟に飛び起きると食堂へと向かった。

 既に食堂には他の参加者が席に着いていた。どうやら、ミステリーナイトとだけあって貸切なようで他の客はいなかった。


「これで全員揃ったみたいだけど、ミステリーナイトとはどういったものなのかな? 」

「はっ、深田様をはじめ皆様、暫くのお待ちを。ミステリーナイトに関してはお食事の後で」

「待たせるね、じゃあ代わりに余興(よきょう)がてらクイズと行こうか。それも実際に起きた殺人事件の」

「それは面白そうだわ」

「おいらも気になりますなあ」

「やりましょう」


 深田の提案に三人が頷く。どうやら、この場の主導権を握ったのは彼のようだった。こうなると太郎も自信がないとはいえ嫌とは言えない。彼は「是非」と答えた。


「結構。それでは参りましょう。簡単な二択問題です。とある姉妹が住んでいる家の一室で火災が起こり姉が亡くなりました。出火元は姉の携帯型扇風機? さて、これは殺人の可能性はある? ない? 」


 簡単な問題だ、太郎は考え「ない」と答える。ところが


「あるわね」

「ありますなあ」

「ありますね」


 口を揃えて三人が殺人と述べた。


「いやいやいや、殺人だなんて、携帯型扇風機で一体何が出来ると」

「知らないならば教えてあげる。携帯型扇風機は落とすと壊れやすいばかりか爆発するの。だから、故意に落としておけば……」

「殺人の可能性もあるってことか」

「吉川さん、解説ありがとう。彼女の言った通り携帯型扇風機を故意に落としてその後、眠っている人の側で起動させて爆発を引き起こし火事の原因とした、とも考えられるので答えは『ある』となる。いやはや、お三方ともお見事です。いや、五人かな」


 そう口にすると深田は鋭い視線を古川夫妻に向ける。


「貴方方も分かっていたみたいですねえ」

「いえいえ、そんな滅相もございません」

「そうですか? 『ない』と答えた彼への視線……いえ、とにかくこのお二人も考案となるとミステリーナイトも面白くなりそうだ」

「お言葉ですが深田様、私供はミステリーナイトの出題には関与しておりません。とあるお方から報酬として依頼金と指示書、皆様にお見せするDVDを受け取ったのみでして」

「へえ、そうなると出題者の正体は誰も知らないと。ますますミステリーだ」


 深田が言うと、田中が面白そうに参加者の顔を見渡す。


「もしかして、出題者、この中の誰かだったりして」

「それは面白いですねえ。おいら達探偵を集めてそんなことを試みるなんて」

「菅野さん、まだ決まったわけではありませんから。とにかく、僕の余興はこれで終わりです。料理を楽しみましょう」


 そう言うと、深田は料理へと視線を移す。どうやら顔馴染みのような三人の会話を見ながら、太郎はこういう場で自分も話の輪に自然に組み込んでくれたであろう春奈の存在が恋しくなっていた。


 ☆☆☆☆☆

 食事が終わると、古川夫妻が食堂の正面にあるテレビに繋がるビデオレコーダーにDVDを入れた。


「それでは、只今よりミステリーナイトを開始します。詳細はこちらをご覧ください」


 静寂に包まれる室内にディスクが回る音だけが木霊する。数秒後、テレビに一人の人物が映った。とはいえ、奇妙なことにシルエットのみで痩せているということしか分からなかった。


「ごきげんよう、探偵諸君」


 明らかに合成だとわかる声が室内に響く。テレビの中の人物が続ける。


「君達がここに来た理由はご存じの通り、ミステリーナイトだ。その名の通りこれから幾つかの罪人を対象とした殺人事件が起こる。それを君達に解決してもらう」


 あまりに漠然とした説明に呆れ顔を浮かべる者もいた。だが、次の一言が場の空気を一変させた。


「勿論、被害者は君達だ」

「私達が被害者ですって! ? ということは私達が罪人ってこと! ? 」


 愛花が周囲に使っていた敬語を忘れ悲鳴を上げる。そんな、彼女を嘲笑うかのようにテレビの中の人物は言う。


「貴方達にも自らが罪人だという心当たりがあるでしょう。私はこれから貴方方に裁きの鉄槌を下します。その犯行を途中で止めることができれば貴方達の勝ち、貴方達が全滅すれば私の勝ちです。簡単でしょう? それでは、楽しいミステリーナイトを」


 映像はそこで止まった。


「ふざけないでよ! こんないたずら仕組んだのはどこの誰! ? この中にいるの? なら言ってみなさい! 罪人呼ばわりされる覚えはないわ! 」

「確かに心外ですが、怒っても何にもならないですぜえ」


 激高する田中を(なだ)めるように菅野が言う。そんな中、深田がニヤリと笑った。


「これは面白い」

「何が面白いのよ? 」

「先程、仰った探偵たちへの挑戦が現実になったことですよ。しかも、相手は僕らを相手に殺人事件なんかを起こそうとしている。見せてもらおうじゃありませんか、その手腕とやらを」


 そんな風に語る深田を見ながら、太郎は今しかないと確信し立ち上がる。


「冗談じゃない、犯人かもしれない人間がこの中にいるかもしれないんだ! オレは終了まで部屋に籠らせてもらう! 」


 彼はそう言い残すと真っ先に部屋へと向かった。



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