第三話「探偵達」
ミステリーナイト当日、太郎が集合場所である港に着くと青空の下に一人の女性が立っていた。
「遅かったわね」
「ま、愛花……どうしてここに」
「どうしても何も、探偵が呼ばれるなら必然的に来るでしょう? 私も貴方も……まさか招待者は自分一人だけだとでも? 」
「まさかそんな」
彼はそう答えるが、わざわざ静岡の愛花に招待がされていたばかりか来ることは予想していなかった。
「それなら良かった。見てなさい、今回どちらが上か分からせてあげるわ」
「助手として……? 」
「そんなわけないでしょ! 」
「まあ、ミステリーナイトだからな。敵同士の方が面白い」
太郎が言う。すると目の前の駐車場に車が停まり四人の男女が姿を現した。
「おやおや、既にご到着とは」
「早いですなあ」
「 」
「 」
「嘘、あの人達は? 」
「ん? 知っているのか? 」
「ええ、刑事事件を主に担当する探偵達。あの若い髪の長い男性は、深田充……北海道の私立探偵よ。そして、あちらの眼鏡をかけた中年の女性が田中夏菜子……沖縄の私立探偵。そして今運転席から降りてきたふくよかな男性が菅野紀夫……青森の私立探偵。」
「ご紹介に預かり光栄だよ。そういう君達は、静岡の私立探偵と……えーと君は」
深田という男性が問いかける。
「東京の私立探偵です」
「なるほど、これで全員なのかな? 」
菅野が太郎達の背後の人物に語りかける。そこには、いつのまにか一人の老人が経っていた。
「ええ、こちらの六名様で全員でございます。ワタクシ皆様のお世話をさせて頂きます、古川と申します」
「古川って……あの笹川事件を解決した夫婦探偵の」
「そんなこともございましたが、今では島のホテルの一オーナーでございます」
「ということは、奥さんは既に島に? 」
「左様でございます、深田様」
「それなら早速出発しましょうか」
「かしこまりました、田中様。それでは皆様、こちらの船にお乗りください」
そう言って彼は立派な一隻の船に手を向ける。
「まあ素敵」
「立派な船だな」
愛花と太郎が思わず呟くと菅野が笑った。
「まあ、うちの船と良い勝負かな」
「繁盛してるんですね」
「静岡と違ってうちは田舎だから。他に競合相手がいないのさ」
肩をすくめながら彼が乗船する。二人はそれに続いた。
⭐︎⭐︎⭐︎
船が出発し落ち着くと深田が切り出す。
「それでは自己紹介といきましょうか。まず僕から、深田充と申します。私立探偵で解決した事件としては永田連続殺人とか……かな」
「そんな謙遜することじゃないじゃない。永田連続殺人ってあわや迷宮入りになりかけた事件でしょ? 」
「そういう田中さんは三沢事件解決の立役者じゃないか」
「あれはたまたまよ」
「次はおいらかな。おいらは菅野。殺人事件てーと、山姥事件かな? 」
「山姥ってあの山姥ですか! 」
深田が驚きの声を上げる。太郎は困ったことに彼等の言う時間がどれもピンと来なかった。
「そちらのお嬢さんは? 」
「吉川と申します。私は、富士山樹海殺人ですかね」
「おお、それもまた有名だ。そちらの君は? 」
深田が太郎に話を振り、遂に来たかと身構える。
「北野と言います。解決した殺人事件は……有名配信者殺人事件です」
「あの、警察が協力者を得て解決したという事件、君だったのか協力者は……」
「まあ」
「でもそうならどうして名乗り出なかったんかな? 」
菅野が尋ねる。
「殺人事件専門というわけではないので」
「なるほど」
彼は納得したように言った。
船に揺られること数時間、日が沈みかけた頃に一行は目的の島に到着した。そんな彼らに船の運転手は
「月曜日にお迎えにあがります」
と告げ、船を発進させる。一行はその姿を見送ると島に向き直った。
「ここがミステリーナイトが行われる謎島か。あそこに見える洋館以外何もないな」
「菅野様、皆様、どうかご勘弁を。娯楽のためになけなしのお金で購入して島ですので」
「どうでも良いからひとまず部屋で休みたいわ」
「かしこまりました田中様。それでは皆様こちらへ」
古川に案内されて一行は島にそびえ立つ洋館へと向かう。洋館までは草木が生い茂っているものの一本道だった。建物の中に入ると螺旋階段とフロントであろう机が彼等を迎え入れる。と同時に一人の老婆が彼等に近寄ってきた。
「これはこれは皆様、長い船旅お疲れ様でした。もう少ししたらお食事となりますので、各自お部屋にてお待ちください。何かご用がございましたら、私共の部屋が食堂とは反対側にございます廊下の突き当たりですので何なりとお申し付けください」
「部屋割りはどうなっているんだい? 出来れば高いところから海景色を楽しみたいと思っているんだが」
「ご心配なく深田様は一番上、三階の一番右の部屋です。ただ、吉川様のみは申し訳ございませんが二階となります」
「オレの下だな」
「何でこうなるのよ」
部屋割りを確認した愛花は太郎に揶揄われ嘆いた。