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第17話

 突如現れた太郎の姿に愛花は思わず拳銃を構える。打ったことはないが、当たるだろうか? いや、当たらない方が良いのか。

 緊迫した状況に彼女は気が付かなかったのだがやがてそれに気がついた。


「そんな物騒なもの向けるなよ」


 慌てて手で顔を覆うジェスチャーをする彼は車椅子に乗っていたのだ。


「どうしましたか先輩」


 後ほど、春奈が車椅子の取っ手を握りながら姿を現す。その様子を見て愛花は拳銃を下ろした。


「ちょっとこれはどういうことなの? 」


 海に転落して死んだはずの太郎とその助手の出現に尋ねると彼は頭を掻いた。


「どこから話せば良いかな……」

「まずは犯人からではないですか? そこから遡っていきましょう」


 春奈が横から言う。


「そうするか、まずは犯人だけれど勿論オレじゃなければ今、銃を所持している吉川でもない」

「当然よ、犯人は古川よ! 」

「古川さん! ? 」


 太郎が目をぱちくりとさせる。


「何よ、検討外れとでも言いたいわけ? 」

「いや、そうじゃなくてオレは島に来て一番にここに来たから誰がその状況に至ったのかまでは知らないんだ」

「その状況? 」

「犯人は、吉川にその銃を渡した人物」


 愛花の心臓が飛び出そうになる。彼は深田が犯人だと言っているのだ。


「深田さんが犯人! ? あり得ないわ」

「深田さん? そうか深田さんだったのか」

「いや待ちなさい、だから彼が犯人なのはあり得ないと言っているの。彼は古川に撃たれたんだから? 」

「その様子を見たのか? 」

「ええ、見たわよ」

「じゃあ古川さんは吉川が見ている中、深田さんだけを撃って逃げたのか? 」

「それは……撃っているところは見ていないわ。ただ深田さんが誰かを追いかけたみたいでその後に発砲音がして」


 愛花はその時の洞窟での状況を彼に説明した。


「……なるほど、でもそれはおかしい」

「何がおかしいのよ」

「犯人は、どうして深田さんだけを撃ったんだ? 」

「私が近くにいるって知らなかったんでしょう? 」

「それなら尚更おかしい、何でその銃を吉川が持っている。普通、銃なんて真っ先に回収したいだろう」

「それは……私が撃たれた後に声を上げたからじゃないかしら。そこで私の存在に気がついて逃げ出した」

「吉川から逃げる理由があるのか? 」

「そりゃ見られたら困るからで……」


 言われてハッとする。犯人からすれば駆け寄ってきた者から逃げる道理はない。そもそも深田以外誰も生きている古川を見ていないのだ。


「貴方まさか、深田さんが古川さんの死体を……」

「海に捨てたんだろうな。恐らく手軽な窓から」


 その時間は十分にあったことを愛花は承知していた。残された者が二人の状況で一人が犯人なのならば、部屋に篭るという選択を愛花が取った以上、もう犯人は自由だったのだ。

 太郎は続ける。


「つまり真相はこうだ、犯人、深田は参加者を次々と殺害し、自分を犯人でないと思わせる為に古川さんの遺体を処理した。そしてあたかも古川さんが生きているように思わせ、その幻影が見破られないように自殺した」


 彼がそう言い終えた直後、一人の警官が「大変だ」と口走りながら三人に駆け寄って来た。


「どうかしましたか? 」


 太郎が尋ねると警官は咳き込みながら答える。


「それが……ゲホッ……深田という男の死因ですが……至近距離からの発砲による自殺と判明しました」

「そんな……」


 愛花が膝をつく。太郎はその様子を見ながら警官に言う。


「ありがとうございます。それから、念の為海を……できれば一階の古川さんの部屋の窓寄りの海を調べてみてください。死体が見つかるかもしれません」


 この一言に警官は逆らわずに了承すると即座に部屋を出て行った。


「何よ、全部お見通しだったってわけ。それならもう少し早く来てくれたらこんなことには……」

「先輩を責めないでください! 」


 間髪入れずに春奈が声を上げる。


「先輩は、落ちた時に足をぶつけた衝撃でここに来るまで気を失っていたんです。だから責めないでください! 」

「そうだったの……悪かったわよ」


 愛花が謝罪すると太郎はバツが悪そうに顔を背ける。


「オレの方こそ。悪かった、あんなヘマをしなければもっと早く駆けつけてこんなことには……」

「やめなさいよ、もう、分かったから……それより深田さんはどうしてこんなことをしたのかしら」


 いたたまれなくなった愛花は話を変える。


「深田さんの事務所に確認したところ、深田さんは真実を追い求めるタイプで犯人を検挙できなかった小型扇風機の件を気にしていたらしいですよ」

「よくそんなの教えてくれたわね」

「はい、ミステリーナイトに招待されたと聞いて、『名探偵の先輩として主義や気にしていることなどを伺いたい』とお尋ねしたところ教えてくださいました」


 春奈が答える。この人物はなかなかに優秀だと愛花は思った。


「なるほど、それにしても小型扇風機か……確かに検挙できたとは言っていなかったな」


 太郎の一言に愛花の中で点となっていた線が一つとなった。


「そうか、そういうことだったのね。皆、言っていたわ。良心から真実を暴かなかったことがあったって。それが彼からしたら許せなかったのよ……自分も含めて」


 良心を超える正義への執着。それは一線を越えているが、自らもその理念に従い裁かれる対象としたのは理解はできないが、生き方を貫いたのは立派なのだろう、とぼんやりと考えた。


「っ……」

「先輩! 」


 苦痛の声を上げた太郎に対し春奈が心配そうに声をかける。傷が痛むのだろう。これ以上この場に留まるのは無意味に思えた愛花は提案する。


「そろそろ、ここから出ましょうか」


 二人は了承し三人で部屋を後にする。


「そういえば、そもそもどうやって貴方は島から脱出できたのよ。ここ圏外になって連絡取れないでしょう? 」


 愛花は歩きながら疑問を口にすると太郎が答える。


「連絡を取れないっていうのが連絡手段だったんだ」

「……? 」

「つまり、とあるアプリのゲームがあるんだが、そのゲームに一日ログインしなかったら事前に調査していたこの島への救援要請になっていたんだ……とはいえ、現地には来ないで地図上だったから島に来て圏外になったときは焦ったけど……」

「確かに、何も起きないのに来てしまうところだったわね」


 愛花は答えながら目の前に現れた警察の船に乗り込み出発する。そして島に探偵はいなくなった。






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