第十一話 確実な手段
ホテルに戻ると二人は食料を確保するべく真っ先に食堂へと向かった。
「まずは食料と飲料の確保ですね」
「ええ、あんなことがあったとはいえ一週間も待つとなると飲まず食わずと言うわけにはいかないから。とはいえ、毒薬が仕込まれていたらアウトだから缶詰目瓶詰めのものを確保しましょう」
愛花は田中の考えに頷いて同意を示すと二人は台所を漁り始める。するとそこに深田と菅野が姿を現した。
「お帰りですか、その様子だと船は来なかったみたいですね」
「その通りよ、そちらはどう? 」
「こちらは何も変化無しです」
「男二人見た目あってトイレに行ってそれで終わりでさあ」
深田を見つめながら菅野が苦々しげに言う。
「つまり、外部の犯人は私達に何もして来なかったというわけね」
「そういうことですなあ」
田中の案に菅野が同意を示す形となったが、空気がピリついていた。その様子を見て深田がため息をつく。
「いい加減、もうやめますか。随分前から気付いてはいましたが、田中さんと吉川さんは僕と菅野さんを疑っているのでしょう? 」
この一言に対して田中が深田の目を見つめて口を開く。
「あら、気付いていたの。相変わらずの名探偵ぶりね、そうよ、私達は貴方達を疑っているわ。あの時、睡眠薬をボトルに仕込んで持ってこられるのは貴方達二人のどちらかだったんだもの」
「そう、状況は明らかだ。そして同じ理由で菅野さんは僕を疑っていて僕は菅野さんを疑っている」
「でも、仕込むだけならそちらのお二方でもチャンスはありそうですがねえ」
菅野が田中と愛花を見て言うと深田はポンと手を叩いた。
「さて、これで皆腹の内を曝け出したわけですが、これからどう致しましょう? 証拠を探すためにそれぞれの部屋を見て回りますか? 」
「それは時間の無駄ね、ここのベランダは海に面しているのよ。証拠なんて投げ捨てて終わりよ。むしろ見つかったらその人に嫌疑がかかるように仕組まれていると考えられる位で得るものはないわ」
深田の提案を田中はピシャリと却下する。
「確かに、そうでしょうけど、それならこれからどうしますかい? 犯人がこの中にいるという可能性が周知の事実な今、今まで通り集まっている、ましてや眠るというのも危険だと思いますがねえ」
「菅野さんの言う通りかもしれません。見張りを立てようにも犯人が一人いると仮定すると見張りが一人ではその人が犯人だった場合好き放題できてしまい、二人でも心許ない、三人は欲しいですからね」
愛花も彼の意見に同意した。
「こうなると自分の部屋が一番安全かもしれないわね」
田中がそう言うと食堂の出口に視線を向ける。
「それでは、皆さん部屋の中で過ごすということですね。皆さんの言うように誰に呼ばれても外に出なければこれ以上安心な場所はないかもしれませんね」
そう言うと深田は缶詰めを手に抱え始める。皆もそれに倣おうとした時だった。
「でも、それはそれで危険やないですかい。一番安心なのは……」
口にしながら菅野は缶詰めではなく包丁を手に取った。