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第十話 二人きりの浜辺

 古川の遺体を片付けた後、四人は食堂でお互いに見つめあっていた。建前上は四人でいるため外部にいる犯人に襲われるはずがないと安心している風を装いつつ愛花は深田と菅野を盗み見る。

 犯人が内部の者であると仮定した場合、キッチンにいた二人にしか睡眠薬を仕込めなかったためである。今後、二人のどちらかと二人きりになった場合は最大限警戒しなければ……と考えていた。

 そうやって疑うべき者がいる反面、睡眠薬を仕込んだであろう時間帯、自分と一緒にいた田中は犯人ではないと確信できた。こうして犯人でないと明らかな者がいるというのは彼女に安心と勇気を与えた。

 迎えの船が来るまでの残り僅かな時間……船! ?

 ハッと彼女は立ち上がる。


「どうしたの? 」

「船ですよ。今日迎えの船が来るのならば、後数時間の辛抱(しんぼう)です」

「そうね、頑張りましょう」  


 田中が微笑む。


「でも、せっかくですし皆さんで港まで行きませんか? 船長が船に乗って私達を待っているかもしれませんし」

「確かに港まで行くのは良い案だけれど全員で、というわけにはいかない。どこに殺人鬼がいるのか分からないんだ。行くのならば留守番もいた方が良いと思う」


 愛花は深田に言われて初めて自分が外部犯の可能性をゼロとして語っていたことに気がつく。恐怖か焦りか鈍っている……と彼女は感じた。


「そうですね、それでは二手に分かれましょう。組み分けは……」 

「私と吉川さんで良いでしょう? 女の子どうしで」

「しかしそれだと万が一のことがあった時に困りやせんかねえ」

「あら、女性を舐めてもらっちゃ困るわ」


 菅野に対して田中がキッパリと言う。犯人の疑いのある深田、菅野と組みたくなかった彼女は心から田中に感謝をした。


「それじゃあ行きましょうか」

「はい」


 二人して曰くつきとなった館を後にする。愛花は解放感に包まれもう戻ることがなければ良いなと考えた。しかし、港へ到着してみるとそこに船の姿はなかった。


「来ていませんね」

「しばらく待ちましょうか? 丁度あそこに打ってつけのビーチがあるし」


 田中が側のビーチを指差す。確かにそこにはビーチがありそこから更に進むと洞窟も見受けられ気分転換には打ってつけの場所だろうと思えた。


「行きましょうか」


 田中の提案を承諾しビーチを歩く。日差しが直接照らしてきて汗が滲むがそれさえも彼女にとっては懐かしさを覚えた。


「私ね、あの二人のどちらかが犯人だと思うの? 」

「え」

「何驚いているの、貴女も同じこと考えていたでしょう? あの時、睡眠薬をペットボトルに盛る機会があったのはあの二人のどちらかだもの」

「そうですね、ですのであの時田中さんが一緒に行こうと言ってくださり助かりました。ありがとうございます」

「それはお互い様でしょう? 」

「そうかもしれませんね」

「でも、田中さんはあの二人と仲が良いのでしょう? 辛くはありませんか? 」

「そりゃ辛いわよ、でもこうなった以上割り切るしかないというか……ねえ、今度二人で一緒にどこか行かない? 」

「良いですね」


 唐突な誘いに愛花は承諾する。彼女にとって、この殺人事件を乗り切った後の約束というのは心強かった。二人は日が沈むまでビーチで時間をつぶしていたが、結局船が来ることはなかった。


「どうして来ないのでしょうか? 月曜日に迎えに来ると言っていたのに」

「私、今とても嫌な想像をしているのだけれど」


 田中の発言にハッとする。確かに、船長は月曜日に迎えに来るとは言ったが、いつの月曜日に来るのかは言っていなかったのだ。


「ひょっとすると迎えに来るのは来週の月曜日……とかでしょうか」

「可能性は高いわね。でも、これではっきりしたわ。そんなことを言えるのは内部の者の可能性が高いんじゃないかしら」

「そうですよね、主催者が犯人でその私達を監視できるのは参加者の方がやりやすいですし」

「ええ、それじゃあ行きましょうか」


 田中が日が落ちて黒くなった洋館を見つめる。愛花も(なら)いその後、深呼吸をする。それは子供の頃に遊んだゲームに出てきた魔王の城に飛び込む前のように。、

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