第4話 浜辺に舞い降りた魔法姫
朝日が昇るころ、俺――レオンは、のんきに浜辺で朝食の魚を焼いていた。
「……この無人島、食料だけは豊富なんだよな」
そう、昨日の竜ワープ事件のあと、スタート地点に戻っていた。
「ドラゴンが居るんじゃ、まともな武器がでないと、探索も厳しいしな……」
そんなことをぼやきながら、浜辺を歩いている時だった。
何かが浜に打ち上げられてる?
「……え? また魚? それとも宝箱とか?」
期待しながら近づくと、そこに倒れていたのは――
「おいおいおいおい、なんで美女!!?」
黄金の髪が波に濡れ、白いドレスが砂に張り付いている。透き通るような肌に、かすかに動く肩。
「……生きてる、よな?」
確認するためにそっと顔を覗き込むと、彼女がうっすらと目を開けた。
「う……ん……」
その瞳は、空のように澄んだ青。見た瞬間、思わず見惚れてしまった。
「ここ……どこ、ですの……?」
「あ、えーと、その、海辺です! あ、いや無人島? あーその、えーっと……」
言葉が出てこない。美女を前にすると、俺ってこんなにポンコツになるんだな。
すると彼女は、きょろきょろと周囲を見渡し、少し不安げに言った。
「!!……ドラゴンは……?」
やがて彼女はゆっくりと起き上がり、自分の状況を理解したようだった。そして、スカートの裾を整えて、深々と一礼した。
「申し遅れました。わたくし、アルカディア魔法学院主席卒業生、セシル・フォン・シュトラールと申します」
「え、まさかの天才魔法使い!? っていうか帝国の令嬢!??」
思わず叫んでしまった。いや、こんな南国で挨拶されても困るんだけど!
「あなたが助けてくださったのですか? 本当にありがとうございます」
そう言って微笑まれると、心臓がバクンッて跳ね、冷汗が出る。ヤバい、さっきの話、俺が竜を転移させたせいで、この子の船が襲われたんじゃ……。
「え、あ、いや、助けたっていうか、焼き魚してたら勝手に打ち上げられて……」
「焼き魚? あ、香ばしい香りがしますね」
彼女のお腹が「きゅるるる……」と鳴った。
……お姫様、可愛すぎか。
「とりあえず、飯食おうぜ。俺の“魚焼きスキル”に期待してくれ!」
俺は彼女に魚を手渡すと、セシルは目を丸くして言った。
「これ、ただの魚じゃありませんわ……魔力が……!」
「おお!魔力!やっぱこの世界って魔法あるの?」
「あります。……いただきます!」
そう言って我慢出来ずに豪快にかぶりつく。
「うまっ……! な、なんですのこのパリパリ感……!」
「ふっふっふ、これぞ“漂流グルメ”よ」
しばらく浜辺で和やかに食事していたが、セシルはふと真剣な表情になった。
「私の乗っていた船が、いきなり現れたドラコンに襲われて……戦闘中に海に落下して、気が付いたら、ここにいました」
あーやっぱり、こう言うのは素直に謝らないと……
「てことは、マジでゴメンなさい!!」
俺は、事の経緯を話した。
「いえ、その状況なら、やむ終えないと思います……まだ、全滅したと決まったわけじゃありませんし!」
食後、二人で周囲を探索しながら会話を続けた。セシルは驚くほど前向きで、何を見ても「すごいですわ!」と目を輝かせる。
突然、茂みの中から魔物が飛び出した。ココナッツゴブリンだ。
「うおっ! セシル、下が――」
言い終わる前に、セシルの手から光が放たれた。
「雷槍!」
ズドン!
ココナッツゴブリンは空高く吹き飛ばされ、ピクリとも動かなくなった。
「お、おお……」
「レオンさん、危ないときは“言う前に撃つ”のが私のスタイルですわ!」
頼もしすぎる。というか、俺いらない説ある?
その後、浜辺に戻って焚き火を囲んでいると、セシルがぽつりと言った。
「……レオンさん、少しだけ、お話してもいいですか?」
「ん、なに?」
「実は……私、帝国の貴族の家に生まれて、ずっと冒険に憧れていたんです」
その横顔は、焚き火の明かりに照らされて、ほんの少しだけ寂しそうだった。
「じゃあさ」
俺は立ち上がり、しゃもじを振りかざす。
「一緒に旅しようぜ。俺とあんたの出会い、きっと運命だったってことで!」
「……ふふっ。運命、ですね。ええ、喜んで!」
その笑顔は、太陽よりも眩しかった。
こうして、浜辺に流れ着いた天才魔法使い・セシルと、俺の奇妙な冒険は、動き出したのだった。