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006

ーーヴェルディア帝国の謁見の間。

皇帝と皇后が玉座に鎮座している。その傍らには側室である、イザベルもいた。


「アンダルシア帝国皇太子、ゼノン・アンダルシア殿下、ご到着です」


侍従の声が高らかに響き渡ると、周囲に控えていた貴族たちの間にざわめきが走った。

ヴェルディア帝国の皇帝陛下への謁見ということで、当然ながら宮廷の重鎮たちが勢揃いしている。

華やかな礼服を纏った彼らは、興味深げに皇太子を見つめていた。


ルシェルもまた、皇帝の傍らでその姿を静かに見つめていた。

光り輝く金色の髪に、凪いだ海のように澄んだ瞳。

流れるような仕草で佇む皇太子の姿は、隣国の皇太子としての威厳と優雅さを兼ね備えていた。


(確か、冷酷な性格で女性に興味がないだとか逆に遊び人だとか....そんな噂は聞いたわね。まぁ、あれでは黙って立っているだけもいい噂の的でしょうね….)


「遠路はるばるよく参られた。アンダルシア皇帝陛下はお変わりないだろうか?」


皇帝の重々しい声が響く。


「父上より、ヴェルディア帝国の皇帝陛下にご挨拶をとのことでした。ヴェルディア帝国の太陽に心からの敬意を込めてご挨拶申し上げます」


皇太子は、低く若々しい声で表情を変えずに淡々と答えた。

その言葉に、貴族たちが満足げに頷く。

ルシェルは、皇太子の視線が自分を捉えた瞬間を見逃さなかった。


彼女の視線に気づいたのか、皇太子がそっと顔を上げ、今度はあからさまにルシェルを見つめていた。

そして、2人の視線が重なったその瞬間、彼の瞳がわずかに揺れたように見えた。


(......今のはなに?)


ルシェルは小さく息をのんだ。


「それにしても、噂通りのご立派な若者だ。アンダルシア帝国も安泰であろう」


大臣の一人が満足げに言うと、他の貴族たちもそれに続く。


「ですが、よくない噂も聞きますしなぁ」

「確かに....何人もの女性を常に侍らせているとか」

「確か殿下はまだ未婚だとか。我がヴェルディアの令嬢と縁を結ぶのも良いですな」

「それもそうですなぁ。我が国にとってもいい縁となることでしょう」


貴族たちは、ゼノンをただの遊び人か、それとも冷酷な皇太子かどちらとも判断し難いようだった。

しかし、それを聞いている皇太子はどんな気持ちなのだろう。噂の的というのはいい気分ではないはず。


「——皇后陛下」


突然、皇太子に呼ばれ、ルシェルははっとした。

ゼノンがまっすぐにこちらを見つめている。


「お会いできて光栄です」


彼の言葉は格式ばっているはずなのに、どこか熱を帯びていた。

彼の青い瞳に、彼女は逃れようのない何かを感じた。


「私もです……ようこそ、ヴェルディア帝国へ」


かすかに微笑みを浮かべながらも、威厳ある態度で彼女は答えた。


「さて、せっかくの機会だ。皇太子にはしばらく宮廷に滞在してもらう予定だが、皇太子は何か要望があれば遠慮せずに言ってくれ」


「お心遣いに感謝いたします、皇帝陛下。では.....この帝国に滞在する間、私の案内は皇后陛下にお願いできないでしょうか?」


その場が騒然とした。


「皇后、良いか?」


ノアがルシェルの方を向いて尋ねる。

ルシェルは戸惑ったが、特に断る理由もない。ルシェルは静かに応じた。


ゼノンは微笑みながら、彼女を見つめていた。

その表情は、先ほどまでとは違いとても柔らかなものだった。

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