世界の始まり
それは、はるか昔のことである。混沌の海に、1つの卵が浮かんでいた。卵が割れて、その欠片が海に落ちる。卵の欠片は、動植物に変化した。それらは高波に押し流されそうになって、卵から孵った生き物にしがみついた。その生き物は、彼らを哀れに思って、自分の体を海に沈めた。生き物は海中で亡くなったが、その体は大地となって、今の世界の形を作った。
「世界中を旅して、地図を作ることは可能だ。だがそれは、王家によって禁止されている。世界の形が人間に似ていなければ、王家の威信が揺らぐからだ」
オスヴァルトがそう言ったのと同時に、馬車が公爵家の屋敷の前で停まった。彼は話を止めて、馬車から下りた。少女たちは彼の手を借りて、外に出た。屋敷の中から、オスヴァルトと似た姿の青年が出てくる。青年は少女たちに穏やかな笑みを向けてから、オスヴァルトに話しかけた。
「兄上。お早いお帰りですね。そちらにいるのが、報告にあった子供たちですか?」
「そうだ。レオ、父上と母上は何と?」
「父上と母上は、兄上が選んだ子に合うのを楽しみにしています。使用人に任せず、僕が直接迎えに来たのもそのためです。兄上が家を出ると聞いて、お2人ともとても寂しそうにしていましたから……。これで兄上が旅に出ることもないだろうと、幸せそうに話していましたよ」
レオと呼ばれた青年は、上機嫌に語りかける。オスヴァルトは苦笑を浮かべた。
「……そうか。では、応接間に向かおう。ここで詳しい話をするわけにもいかないからな」
青年が開けた扉を、オスヴァルトが通り抜ける。ユールリアがティルターシャの手を引いて、彼の後についていった。青年は穏やかな笑みを浮かべて、少女たちを見送った。広い屋敷の中では、使用人たちが忙しそうに働いている。ティルターシャがユールリアに向かって、小声で問いかけた。
「ユーも、こういうところに住んでいたの?」
「ううん。私が暮らしてた家は、このお屋敷より狭かったから」
「でも、貴族のお屋敷だったんでしょ?」
「そうだけど、公爵家と子爵家だからね。全然違うよ」
ティルターシャが首を傾げる。オスヴァルトが応接間にたどり着いて、扉を開けた。少女たちは彼に連れられて、部屋の中に入った。部屋の中央には机があり、そこには豪華な服を着た男女が並んで座っていた。ティルターシャが気後れしたような様子で、ユールリアの背に隠れる。ユールリアはティルターシャの手を引いて、椅子に座った。