結果
ユールリアは1人で、家を出る準備をしていた。策といっても、大したことはできない。オスヴァルトとティルターシャに思っていることを話しても、カズラを信じ切っている2人は笑って否定するだろう。
(2人が悪いわけじゃない。葛くんのやり方は、人が良いほど引っかかりやすいものだから)
彼は特別な力を持っている。けれど彼の本当の強さは、その力に由来するものではない。
(葛くんは無理やり人を動かすんじゃなくて、時間をかけて他人が自分から近づいてくるように仕向けるのが上手いのよ)
ユールリアはため息をついた。月の見えない夜。荷物をまとめて背中に背負った彼女の背後から、その人間は声をかけた。
「1人で家から出ていくなんて、ずいぶんと思い切りが良いんだね」
「……本当、厄介な人ね」
ユールリアは荷物を置いて振り返った。声を聞いただけで、彼女にはそこにいるのが誰なのか分かっていた。
「予想してたの? 私が1人で家を出ていくなんて」
「可能性はあると思っていたよ」
「そう。もしかして、私が出ていこうとしたら知らせてほしいって、この家の土台になっている世界樹に頼んでいたの?」
「いや、僕が君の行動を観察していたんだ。それも最初は、ただ君のことを目で追っていただけ。君が逃げ出すなんて思いもしなかったよ」
「なんでそんなことしてたのよ」
「好きな子の行動が気になるのは、普通のことでしょ」
カズラは平然とした表情で告げた。ユールリアがジト目になった。
「葛くん、そういうとこあるよね」
「うん。君は昔から、僕がこういう人間だって知ってたと思うけど?」
彼は穏やかな声で話している。変わっていないことを示して、受け入れてもらおうとしているのだろう。そうと理解した上で、彼女は小さな声で呟いた。
「仕方ないなあ」
それで終わり。彼女は荷物を置いたまま部屋に戻って、彼は黙ってその背を見送った。彼女が家を出ようとすることは、もう無い。
(ありがとう、ユールリア)
彼女は彼のことを嫌っていない。本気で嫌っているのなら、最初から親友に全てを打ち明けて、3人で家を出ようとしていたはずだ。そうしなかったということは、初めから彼の気持ちを受け入れていたということ。彼女は彼に見つかって止められることを予想していた。けれどそうならなかったら、そのまま家から出ていっていたことだろう。
(……本当、気づけて良かった。彼女に出ていかれてたら、僕は立ち直れてなかったよ)
カズラは苦笑を浮かべた。こうして、彼女と彼の話は終わる。龍の伝説は大陸中に広まって、ノアルミナ王国は末永く続いていった。後に語られる話では、ローゼンフェルト家にいた4人の子供たちはそれぞれ、幸福な生を送ったとされている。
かなり無理やり終わらせた自覚はあります。
明日の18時からは現代日本ベースの異世界での話を始めようと考えています。




