時間と慣れ
世界を支えている生き物は、龍という名で呼ばれるようになった。
「まあ、彼らは自分たちの呼び名に関心がないからね。人間が彼らをそう呼ぶと決めたのなら、彼らはそれを受け入れるよ」
カズラは笑いながら言った。オスヴァルトは何も言わなかった。彼らは共に、龍の血を継いでいるということになっている。表向きは。
「本当にいいの? 葛くんには、龍の血なんて流れてないのに」
「ああ、構わない。私たちと同じだと言っても、力がなければ信用されないだろうが……カズラなら、私たちの真似をすることも可能だろう」
「いや、そうじゃなくて……オズは嫌じゃないの? 葛くんは、オズと同じ生き物じゃないのに」
「私にとって、それは大したことではない。カズラが龍だと言い張ることで誰かが困るのなら止めてほしいが、誰も困らないのなら放っておけばいいだろう」
ユールリアに問われたオスヴァルトは、平然とした表情で告げた。彼は細かいことを気にしない。それが彼の個性なのか、それとも龍と呼ばれるようになった生き物の性質なのか。ユールリアには分からなかった。4人はカズラが作った家で、たまに柱から聞こえてくる声と遊びながら穏やかに暮らした。ローゼンフェルト家はレオポルト、王家はアレクシア王女の夫となったノアが継いで、正式な代替わりが行われることになった。
「良かったね。みんな、幸せになって」
ティルターシャは何も知らない。彼女は今日も、あの家で穏やかに生きている。あれ以来、パーティーにはそれほど興味を持たなくなったが、公爵家が客を選んで呼ぶ庭でのお茶会だけは欠かさず参加していた。ユールリアは、公爵家の人々がそのお茶会でティルターシャの婚約者を探していることに気づいたが、止めることはなかった。カズラの助言で公爵夫人がティルターシャの意思を尊重してくれることになったし、今のところティルターシャのお目当ては男の子ではなくお菓子とお茶だったから。
「そうだね。今日も何事もなくて、とても良い日だったよ」
カズラは素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。ユールリアはため息をついた。彼女は、この家の周囲にトリフォとキルシュが常にいて、家を守り続けていることを知っている。
「ねえ、やっぱり2人も家に入れてあげた方がいいんじゃない?」
「いいんだよ。彼らは野宿にも慣れてるし」
「私が気になるの。部屋を用意して、ちゃんと食事を出してあげて」
「……分かったよ」
カズラは苦笑を浮かべて外に出た。しばらくして、彼は外にいた2人を連れて、家の中に入ってきた。2人の顔を見たティルターシャが声を上げる。
「あ! 前に、ユーとティルを拐おうとした人だ! カズラくんのお友達だったの?」
「ええ。迷惑をかけてしまったようでしたから、紹介するかどうか迷っていたのですが……」
「気にしなくていいよ。カズラくんのお友達なら、歓迎するから。ね、オズもそうだよね?」
「そうだな。彼らがカズラと親しいのは、嘘ではないようだし。彼らがティルターシャやユールリアに手を出すことはないだろう」
ティルターシャとオスヴァルトは、やって来た客人を温かく迎え入れた。ユールリアは無言でお茶のおかわりを淹れた。
(こんな程度じゃ、何も変わらないんでしょうけど。……少しでも、カズラの思惑を崩しておかなきゃね)
彼女は誰よりもカズラのことを理解している。ティルターシャに婚約の話が持ち上がるのにユールリアには何も言ってこないのも、カズラが裏から手を回しているからだろう。このまま進んでしまったら、いずれカズラの思い通りになってしまう。それを避けるために、ユールリアは密かに計画を練っていた。




