遺品
披露宴は何事もなく終わった。ティルターシャとオスヴァルトは、カズラの思惑に気づかないまま、彼と共に家に帰った。ユールリアは2人に何も言わなかった。
(……最近、家に見たことがある物が増えてきてる。多分、葛くんが置いているのね)
それが元々どこにあった物なのか。ユールリアには何となく見当が付いていた。
(どうやって持ってきたのかな。お父さんの、遺品なんて。義理のお母さんと妹は、今頃何をしてるんだろう)
見覚えのある傷がついた時計の前で立ち止まって、ユールリアは遠くを見つめるような目をした。
「……どうしたの?」
ティルターシャが彼女の様子を見て首を傾げる。カズラは笑って、ティルターシャの背を押した。
「彼女はきっと、考え事をしているんだと思うよ。僕がついているから、2人は先に眠ってて」
ティルターシャは少し迷っていたが、オスヴァルトに連れられて部屋に戻った。カズラは2人の姿が見えなくなったのを確認して、ユールリアに声をかけた。
「その時計は、3000枚の金貨で買い取ったんだ。君の義理のお母さんから」
「じゃあやっぱり、これはお父さんの……」
「そう。それはオリバー子爵の誕生日祝いとして、彼の実の父親が50年前に送った金時計だ。傷もついているし、美術品としての価値は高くない。そんな時計に大金を出す商人を見た奥方は、きっとこう思ったろうね。その商人は見る目がないから、安物でも高く売りつけられるって」
「でも実際は、お父さんの遺品だったから高いお金を出してるだけだった。……2人は今、どうしているの?」
「さあね。もうオリバー子爵の遺品は全て買い取ったから、その後のことは知らないよ。でも、母子2人で暮らしていくのに困らないくらいのお金は渡してるから、きっと幸せに暮らしてるんじゃないかな」
「嘘。葛くん、そんなこと思ってないでしょ」
ユールリアは時計に視線を向けたまま、冷たい声で言った。カズラは穏やかな笑みを浮かべていたが、彼女の言葉を聞いて目を細めた。
「そうだね。ユールリアの義理の母であるケイシーと、妹であるジョイス。2人とも、金の使い方が分かっていないようだった。それに2人は、貴族社会を甘く見すぎている。王家と繋がりが持てたことに喜んで、他のことには目が向いていないようだったから……今頃は、誰かに殺されているかもしれないね」
「そこまで分かっていて放っておいたの?」
「だって、彼女たちはユールリアを人買いに売った人間だよ。そんな人間にわざわざ忠告して、先行きの面倒まで見る必要はないだろう?」
ユールリアはため息をついてカズラに視線を向けた。
(本当、油断のならない人なんだから。気をつけて見てないと、何をするか分からないわ)
カズラはユールリアが自分を見ていることに気づいて、嬉しそうに笑った。彼の真意が分からないユールリアは、怪訝そうな顔をしていた。




