結実
ノアが短剣を振るう。覆面の男はナイフを投げつけて逃亡した。同時に扉が開いて、カズラが部屋に入ってくる。
「姫様! 大丈夫ですか?」
「は、はい……ノア様に守っていただきましたから……」
アレクシアが下を向いて、小さな声で言う。男を追うのを諦めたノアがアレクシアのところに戻ってきた。
「すみません。こちらは逃してしまいました。そちらは?」
ノアがカズラに話しかける。カズラは目を伏せて、首を横に振った。
「残念ながら周囲が暗く、顔を見ることは出来ませんでした。何も話さなかったので、声も……」
「そうですか。それで、あなた方はどうしてここに? こんな場所に2人きりで来るなんて……」
「今日は月が綺麗だったので、彼女と2人きりで見ようと思いまして。そのついでに、王女様に断りを入れようと思っていたんです。僕には愛する人がいるので、あなたの想いには答えられないと」
カズラの言葉を聞いた王女が涙を流す。ノアはため息をついて、彼女を抱き寄せた。
「まったく。こんなに可愛らしい王女様に好かれているというのに、罪深い人ですね」
「僕にとって彼女は思い出の人なんですよ。あなたにとっての彼女のように」
ノアが頬を赤らめて目をそらす。アレクシアが目を見開いて、ノアに視線を向けた。
「ノア様にも、大切な方がいらっしゃるのですか?」
「ええ。ですがその方は、別の男を愛していて……その男に勝たなければ告白できないと思っていたんですが、全てのことで上回られてしまっていて悩んでいたんです。……ですが、今の話を聞いて確信しました。その方を愛する気持ちなら、その男には負けないと」
ノアがアレクシアを見つめる。彼女は戸惑ったような様子で、彼の目を見返した。
「その方とは……?」
「それはあなたですよ。アレクシア様」
ノアは真剣な目をして告げた。アレクシアはその言葉を聞いて、思わずカズラに目を向けた。
「でも、私はカズラ様のことを愛しておりますから……」
「そうでしょうね。……見ていれば分かります。ですが、その男はあなたを愛していないのでしょう? 私は諦めませんよ」
ノアが得意げに笑う。カズラは穏やかな笑みを浮かべた。
「……そうでしょうね。僕には愛する人がいる。そしてそれは、王女様ではありませんから」
アレクシアが困ったような顔をする。ノアは彼女の耳元で囁いた。
「あなたのお気持ちは理解しています。今すぐにとは申しません。ですがいつか、あなたに心から愛していただける男になります。見ていてくださいね、アレクシア様」
アレクシアが恥ずかしそうにしながら頷く。そんな2人を見て、カズラは笑みを深めた。




