世間話
3人の話が終わった頃に、馬車の外が騒がしくなる。オスヴァルトが馬車から下りて、外の兵士たちに話しかけた。
「終わったか?」
「そうですね。後は捕まえた奴を締め上げて、子供たちの行き先を特定できればいいんですけど……」
「それは難しいだろうな。売られた子供は名前を失う。人間として生きられるかどうかも、怪しいところだ」
「ですよね。今回は2人の子供を保護できましたし、それで良しとしますか。あの子たちは、隊長の家で育てられるんですよね?」
「そのつもりだったが、子供たちが私に懐いてしまってな。旅についてきたいと言うんだ」
「あー、そりゃそうですよ。隊長が助けたんですから、最後まで面倒見なきゃ。なあ、お前らもそう思うよな?」
「当たり前だろ。1度は人買いに売られた子供だぜ。オレはあの子たちに幸せになってほしいよ」
「うんうん。隊長が引き取ったからには、そのまま育てなきゃ嘘だよな。てか、もうその子たちでいいじゃないですか。だって隊長が出ていく理由って、アレでしょ? その子たちを代わりに育てれば、公爵様も納得してくださいますって」
兵士たちが笑いあう。オスヴァルトは渋い顔をした。
「お前たちは気楽だな。あの子供たちを引き取っても、彼女たちにローゼンフェルトの血が流れていないのは確かだ。そのことは、あの子たちも分かっていた。養子として大事に育てられたとしても、実の子供には敵わないと」
「いやあ……そうかもしれませんけど、ねえ?」
「ローゼンフェルト公爵のことだから、隊長が気に入って引き取ったって聞いたら、その子を養子に迎えろって言いますよ。あのことが判明して、公爵がどれだけ落ち込んだか。隊長だって、覚えてるでしょ」
「勿論だ。だが、それ故に父上の期待の大きさも知っている。私の子供として引き取り、私が育てるとなれば、あの子たちには自由などなくなるだろう。あの子たちは賢い子だ。それが嫌だから、私と一緒に旅をすると。金髪の子供は、そう言っていた」
笑いながら話していた兵士たちが、彼の言葉を聞いて固まる。
「あー……そう、ですねえ……」
「あの子かあ。そういや、服も庶民にしては仕立てが良かったもんな。どっかの貴族の不義の子なんかね」
「いやあ……俺はいいと思うけどな。だって隊長が育てるんだろ? きっと世界一の淑女になるよ。他国の王族の正妻だって、夢じゃないぜ」
「そんなこと言って、お前は隊長と別れたくないだけだろ。……オレだって本当は止めたいよ。でもオレじゃ無理だ。だって隊長に勝てねえもん」
「てか、誰もいねえだろ勝てるやつ。ティレア将軍でも勝てなかったんだから。大丈夫、隊長は遠くで生きててくれるよ」
兵士たちはそんな話をしながら遠ざかっていった。オスヴァルトは無表情で、彼らを見送った。