それから
カズラはティルターシャの言葉を聞いて目を見開いた。そして、その次の瞬間には目を細めて呟いた。
「……そうだね。王女様とのことに彼女を巻き込んだのは軽率すぎた。今後は気をつけるよ」
ティルターシャは満足げに頷いて彼から離れた。そしてユールリアに近づいて、笑って声をかけた。
「ねえユー、カップを2人で片付けてから一緒に書斎に行こうよ。前に読みかけだった本も読みたいし」
「そうね! そうしよ!!」
ユールリアは顔を赤くしたまま、机の上に残されたティーカップをまとめてティルターシャと共に部屋から出た。オスヴァルトが不思議そうな表情で彼女たちを見送る。カズラはため息をついて彼に話しかけた。
「あなたはやはり、恋愛には興味がないんですね」
「そうだな。人間の恋や愛というものは、私には理解できないことだ」
「恋はともかく、愛の方はあなたにも通じるものがあると思いますよ。この世界が今も存在し続けているのは、あなたの元となった存在が全ての生命を愛しているからでしょう?」
カズラは鋭い目つきでオスヴァルトを見た。オスヴァルトは目をそらした。
「……私には子供ができないからな」
「それにも抜け道はありますよ。あなたも、もう気づいているのでしょう?」
世界を作った存在と同じオスヴァルトは、その気になればできないことなど何もない。世界に存在する生まれる前の魂を引き寄せて自分の子供とすることも可能だと、カズラは察していた。そのことを暗に指摘されて、オスヴァルトが黙り込む。カズラはその様子に、油断のない眼差しを向けた。
(彼は既にあの洞窟で、自分が万能の存在であることに気づいている。だから反論しないんだろうけど、何を考えているのか分からないんだよな)
オスヴァルトは何も言わない。カズラは大きく息を吐いて話を続けた。
「あなたは宝が守れればそれでいいのでしょう? それなら僕が彼女と結婚しても、何の問題もありませんよね」
「それはユールリアの気持ち次第だろう。私が許可することではない」
「僕はあなたの気持ちを聞いているんです」
オスヴァルトがカズラの方を見る。2人の目が合った瞬間に、オスヴァルトは苦笑を浮かべて告げた。
「君が見抜いたとおりだ。私は人間ではない。君がどんな風に誤魔化そうとも、君やユールリアとは違う存在であることは確かだ。……ユールリアを見つけなければ、あのまま死ねたというのにな」
「今更ですよ。それに、あなたが死ねば彼女たちが悲しみます。ユールリアを悲しませないために、僕はあなたの立場を確かなものにしようと思ったんですから」
カズラの言葉を聞いたオスヴァルトが目を伏せる。カズラはそんな彼から目を離さないようにしていた。




