困惑
「葛くんったら、こんなに可愛い子に好かれてるなんて。私に構う必要なんて、なかったんじゃないかしら」
ユールリアが楽しそうな笑みを見せる。カズラは額に手を当ててため息をついた。
「からかわないでよ。僕には君という本命がいるんだって、何度も言っているだろう?」
王女……アレクシアは戸惑ったような表情で、カズラを見つめた。
「カズラ様……? 私、何かいけないことをしてしまいましたの?」
「……いえ、そういうわけではありませんよ」
カズラは慌てて、取り繕ったような笑みを浮かべた。そしてアレクシアに近づいて、彼女と目を合わせて微笑んだ。
「お父様が何を仰ったかは知りませんが、姫様には僕などより相応しい方がいらっしゃいます。お茶はお出ししますから、それを飲んだらお帰りになってくださいね」
「そんなあ……今日こそカズラ様とお話したいと思って、お茶会が始まる前にお訪ねしましたのに……」
「いいじゃない、別に」
ユールリアが笑いながら口を挟む。
「せっかく来てくれたお客様なんだから、お茶を飲みながらゆっくり話せば。葛くんのことなら、何でも教えてあげるわよ」
「本当ですか?!」
アレクシアが飛び上がって喜ぶ。ティルターシャは不思議そうな顔をしていたが、ユールリアが乗り気なのを見て、口を出さないことにした。
「ねえオズ、お茶の用意をしてくれる?」
「ああ、構わないが……菓子は出さない方がいいな。王女様はこの後、庭のお茶会に参加されるのだろうし」
「それもそうね。じゃあ、そういうことだから」
ユールリアがカズラに目配せする。彼女はそのままアレクシアの手を引いて、家の奥に向かっていった。ティルターシャが慌てて彼女を追いかける。オスヴァルトはカズラに1度視線を向けたが、何も言わずにお茶を淹れにいった。残されたカズラは目を細めて、小さな声で呟いた。
「まったく。こんなに好かれるとは思わなかったな。ユールリアもユールリアだ。僕が困ることが分かっていて、あの王女様を誘うんだから」
カズラは目を伏せて、少女たちがいる客室に向かってゆっくりと歩いていった。客室から、子供の笑い声が聞こえてくる。カズラは客室の扉を開けて中を覗いた。ユールリアが笑顔で、アレクシアと話をしている。
「どうした。入らないのか?」
背後から声が聞こえてくる。カズラは振り返って、声の主であるオスヴァルトに鋭い視線を向けた。
「お茶を持ってきたんですね」
木製の盆にカップを乗せて両手で持ったオスヴァルトが、カズラの険しい表情を見て首を傾げた。
「王女様にお茶を出さないわけにはいかないだろう。……どうしたんだ、何かあるのか?」
「いいえ、何も」
カズラは音を立てないように扉を閉めて、その場所を離れた。オスヴァルトは無言で彼を見送った。




