旅立ち
少女たちは、近くに停まっていた馬車に乗せられた。馬車の中で、ユールリアがオスヴァルトに問いかける。
「ねえ、オズ。私たちはこれから、どこに行くの?」
「まずは、ローゼンフェルト公爵の屋敷に行くことになる。それからどうするかは、お前たち次第だ」
「どうするも何も、私たちはあなたに頼るしかないんだけど。まさか、引き取っておいて放り出すなんてことはないでしょうね?」
「無論だ。私からローゼンフェルト公爵に頼んで、適切な教育を受けさせてやろう。それでいいな?」
「その公爵様は、血が繋がってない子を自分の子供として育ててくれるの? ティルは人間の子供じゃないけど、それでも?」
ユールリアはオスヴァルトに冷たい眼差しを向けた。彼は真顔で言った。
「問題ない。厳しい人だが、息子の最期の頼みであれば聞き入れてくれるだろうからな」
「最期って、どういうこと? あなた、死ぬつもりなの?」
「そうだ。私はこれから旅に出る。目的地のない旅だ。護衛を雇うつもりもない。無事でいられる保証など、どこにもないからな」
ユールリアはティルターシャの方を見た。彼女は無言で頷いた。2人は声を合わせて、言葉を紡いだ。
「「じゃあ、連れてって」」
オスヴァルトが目を丸くする。
「いいのか? ローゼンフェルト公爵家は、王家の血を引いている由緒正しい家系だ。水や食事に困ることはなく、病になれば医者を呼ぶことができる。高価な物に囲まれて、贅沢な暮らしをおくることも可能だ。それでもお前たちは、私と共に旅をすると?」
ユールリアは目を細めた。
「私の家は公爵家じゃなくて子爵家だったけど、私は後妻として嫁いできたお母様と血が繋がっていなかったの。だから追い出されたのよ。王家の血を引いている公爵家ともなれば、血の繋がりが何よりも大切な要素になるわ。公爵様が私たちを引き取って育ててくださったとしても、公爵家の血を引いている子供が生まれれば、どうしたってその子の方が優先されることになる。あなただって、そのくらいのことは分かってるでしょ? そんなことになるくらいなら、あなたと一緒に旅をするわ。その方が、言いたいことが言えるもの」
オスヴァルトは子供たちを見つめた。子供たちは、真剣な表情をしている。彼はしばらくして、ため息をつきながら言葉を発した。
「……お前たちの望みは分かった。その選択を後悔しないと誓えるなら、私はお前たちを連れていこう」
ユールリアが満足げに笑う。ティルターシャも、楽しそうな笑みを見せた。