4人暮らし
それは数日後の夜のことだった。本を読んでいるユールリアの横で、ティルターシャが大きなあくびをする。
「ねえユー、もう寝ようよ。いつもみたいに、2人でさ」
「今日は先に寝てて。私は、この本を読み終えるまで眠らないつもりだから」
「そう? でも無理しないでね。本の続きなら、明日読んでもいいんだから」
ティルターシャはそう言い残して、書斎から出ていった。ユールリアは彼女が部屋から出たことを確認して、手に持っていた本を閉じた。
(ティルは好奇心が旺盛な明るい子だから、もうここで暮らすことに慣れてるけど……私は……)
部屋の扉が開く音が聞こえて、ユールリアは慌てて顔を上げた。扉を開けた人物はカズラだ。彼の姿を見たユールリアは、ため息をついて立ち上がった。
「何のつもり? どうして、こんなことをしたのよ」
「どうしてって……君をこの家に留めておくためだけど。ティルターシャがこの家を気に入ってくれたら、君は友達のためにここに居てくれるはずだから。そんなことは、君も分かっているだろう?」
「ええ、分かってるわ。問題は、オスヴァルトの存在よ。昔の葛くんなら、自分以外の男が私と同じ家で暮らすことなんて、絶対に許さないはずなのに。どうして、オスヴァルトの部屋まで用意していたの?」
「それはもちろん、必要だったからだよ。彼は君から離れたがらないと知っていたから。彼にとって、君は大切な宝だからね」
「……なんで、葛くんがそんなことを知ってるのよ。オズに聞いたの?」
「そんなこと、聞かなくても見ているだけで分かるよ。彼は無意識に、君の側から離れないようにしているから」
ユールリアは立ち上がって、本を本棚にしまった。カズラは入り口の近くでその様子を見ながら話を続けた。
「それに彼はまだ気づいてないようだけど、心も体も強靭な彼に弱点があるとするなら、それは君の存在だ。君から離れれば離れるほど、彼は弱っていく。だからこの家に彼の部屋を作ったんだよ。彼が君の近くにいられるように。まあ、彼の体には子供を作るための器官がないと知っていたのも理由の1つだけど」
「……それは、お医者さんから聞いたことかしら?」
ユールリアがカズラを睨む。カズラは真剣な表情で告げた。
「別に、彼を貶めるために調べたわけじゃないよ。むしろ、その逆だ。僕は彼の真実を明らかにして、その地位を確かなものにしたかったんだ。他でもない、彼のために」
「だから、どうして葛くんがそんなことをしなきゃいけないのよ。葛くんはオズのこと、敵だと思っていたんでしょ?」
「戦うのなら、同じ条件じゃないとフェアにならないだろう? だからだよ」
カズラはそう言って微笑んだ。ユールリアは額を押さえた。
「相変わらず、面倒な性格をしてるわね」
「でも、君は今でも好きでいてくれてるだろ? そういうところ」
カズラが得意げに笑む。ユールリアは無言で彼の横をすり抜けて、部屋の外へ出ていった。彼女の頬が赤くなっていることに気づいたのは、そのとき側にいたカズラだけだった。




