温室
ガラス張りの天井から、太陽の光が差し込んでいる。屋内に咲き乱れている淡い青色の花を指さして、ティルターシャが声を上げる。
「ね、言ったでしょ。これがティルの故郷に咲いている、アルメーニャの花だよ」
「本当。綺麗な花ね」
ユールリアがティルターシャの横に立って同じ花を見る。ティルターシャは壁に掛けられたカゴを見上げて話を続けた。
「この部屋も、あのカズラっていう男の子が作ってくれたんだよね。ユーはあの子と生まれる前に知り合ったって言ってたけど……どんな子なの?」
ユールリアは半目になってため息をついた。
「頭が良くて、世渡りが上手い。子供の頃から大人びてて、しっかりした子だったわ。下らないことにいつまでもこだわり続けてる、子供っぽいところもあるけどね」
「相変わらず、容赦がないね」
少女たちの背後から声が聞こえてくる。少女たちが顔を見合わせて、同時に振り返った。そこにはカズラがいて、2人に穏やかな笑顔を向けていた。
「下らないことを下らないって言って何が悪いの? 葛くんが私のことを好きなのは、昔のことがあったからでしょ。イジメを受けてたのは子供の頃だけで、その後のあなたは順風満帆。馬鹿にされても自分の力で跳ね返していたじゃない。なのに子供の頃のことを生まれ変わっても気にするなんて、バカバカしいって言ってるのよ」
ユールリアが低い声で呟く。カズラは困ったような表情で口を開いた。
「子供の頃のことだけじゃないよ。君に名前を呼ばれることや、君の笑顔が近くで見られることが嬉しくて、ここに居たいと思っているんだ。プロポーズの時に言っただろう? 君に恋い焦がれている理由は、それだけじゃないと」
「相変わらず口が上手いのね。ティルは、こんな男に騙されちゃダメよ。昔から私に近づく男を遠ざけて、自分だけが私と関わるようにしてたんだから。今だってそうよ。私たちのために家を建てたと言えば聞こえはいいけど、逆に言えば私と外界を隔てるための壁を作ったということ。やっていることは、昔と何も変わってないわ」
「そうなの? でも、ユーはそれを知ってて結婚したんだよね?」
「仕方ないでしょ。葛くんに遠慮して、私に言い寄る男がいなかったんだから。両親を安心させるためにも、結婚する必要があったのよ。今の私には気づかわなきゃいけない両親もいないし、無理に結婚する必要はないわ」
「そう。だからこそ、転生した君を迎えに来たんだ。それでも僕と結婚してくれるなら、それは君が僕を選んでくれたってことになるだろう?」
カズラが得意げに笑う。ユールリアは目を細めて、彼を見つめた。




