不思議な家
「ところで、彼ってことはこの家に使われてる世界樹は男の子なの?」
ユールリアが周囲を見回しながら聞く。カズラは柱に手を当てて言葉を発した。
「彼は両方の性別を持ち合わせているよ。植物だからね」
【そこの男と同じだな。オレも人間じゃねえから、人間の常識は当てはまらねえ。この世界でこれからも生きてくつもりなら、お嬢さんも覚えておきな。人間のものさしで測れねえもんは、お嬢さんが思うよりも多いんだってことをな】
「じゃあ、なんでそんな喋り方なの?」
【悪っぽくてカッコいいからだよ。カズラが教えてくれたんだぜ】
「そうなの?」
ユールリアが首を傾げてカズラを見る。彼は笑顔で頷いた。
「家の素材にする代わりに人間のことを教える。そういう約束だったんだ。彼は森での暮らしに飽きて、人間の国に行きたがっていたからね」
建物を見て回っていたティルターシャが、玄関に駆け戻ってくる。彼女はユールリアの腕を掴んで引っ張った。
「ねえ、ユーも見に行こうよ! 綺麗な温室があるんだよ。ティルの森にあったのと同じ花が咲いててね、ユーにも見てほしいの」
「う、うん。いいけど……」
ユールリアは戸惑いながらティルターシャに付いていった。オスヴァルトが2人を見送って、小声で呟く。
「愛しているのだな。ユールリアのことを。彼女の友人であるティルターシャのために、こんな家を作らせるほどに」
カズラが目を細める。彼は低い声で言った。
「ええ、もちろん。あなたは愛していないんですか? 彼女のことを」
「……それが分からないんだ。彼女が私の宝であることは間違いない。だが私は人間ではないし、生殖能力もない。それに彼女と君は、昔から仲が良かったのだろう? 君たちの間に無理やり割り込むようなことをして、彼女に恨まれたくはないからな」
「彼女はそんなことであなたを恨むような人間ではありませんよ。それははあなたも分かっているはず。本当は、僕と争いたくないだけなのでしょう? あなたは戦うことを好まない。敵が存在しない生物であるあなたにとって、誰かと戦うということは相手を傷つけるということと同じですからね」
オスヴァルトがカズラの目を見る。カズラは真剣な顔で話を続けた。
「ですが、これは彼女の心を得るための戦い。勝ちを決めるのは彼女です。あなたが勝つかどうかは、まだ決まっていませんよ」
「しかし、私は」
「ええ、あなたは人間ではありません。ですが、僕も彼女も、そんなことは気にしていない。あなたがその程度のことで彼女を諦めてくださるのはありがたい限りですが、それでは張り合いがなさすぎる」
カズラがオスヴァルトの横を抜けて前に出る。オスヴァルトは無言で彼の背を見つめる。彼は振り返らずに告げた。
「彼女は1度、あなたと旅をすることを優先しました。ですから僕はあなたのことを調べ上げて、公爵家に呼び戻したのです。僕の敵になる者がいるとすれば、それはあなただと思ったから。そのあなたがろくに勝負もせず、自分から身を引くような臆病者だとは思いませんでしたが」
彼はその言葉を残して、少女たちを追っていった。オスヴァルトはその場に立ち、彼が去った方向を見続けていた。




