離宮
木々の影に隠れるように、小さな木造の家が建てられている。カズラは懐から鍵を取り出して、その家の扉を開けた。
「すごいねえ、ホントに全部木でできてる!」
ティルターシャが駆け足で家の中に入っていく。ユールリアは目を細めて周囲を見渡した。
「こっちだと石材が主流だと思ってたんだけど、木材で作る家もあるのね」
「ただの木材じゃないよ。切り倒しても生き続ける、世界樹を使って建てているんだ。彼は人間の暮らしに興味があるようだったから、直接交渉してね」
カズラが笑顔で柱に触れる。柱から声が聞こえてきた。
【コイツといると面白そうだったから引き受けたんだ。これからよろしくな、お嬢さん】
ユールリアは目を丸くして、柱を見つめた。
「喋れるの?」
【まあね。こう見えて長生きなんだぜ、オレ。今年で1200才くらい。まあ、それでも世界樹としては若い方だけど】
「それじゃあ、この家はあなたの体の中みたいなものなのかしら」
【いや、そういうわけじゃねえけど……説明メンドイ。任せた】
柱からツタが伸びてきてカズラの腕を叩く。カズラは苦笑を浮かべた。
「世界樹は加工しても生きられるし、こうして話をすることもできる。だけど人間のような目と耳はないから、家の中で起こっていることを見聞きすることはない。まあ、楽しそうに遊んでいるときに自分も加えろと言ってくることはあるかもしれないけど……それだけだよ。それにティルターシャが暮らすには、こういう家が1番いいんだ」
【あー、あの精霊の子! ティルターシャっていうのな。カワイイ子じゃん。確かにあの子には人間の家は馴染みがねえだろうから、オレで建てるのがいいかもな。あの子は南の種でオレは西の木だから、直接会ったことはねえけど】
「しかし、カズラはそのことをどこで知ったんだ? あの2人組から聞いたのか?」
オスヴァルトが不思議そうな顔で話に加わってくる。カズラは穏やかな笑顔を崩さずに頷いた。
「そうだよ。オスヴァルトのことは王宮で調べられたけど、あの精霊の子に関しては目撃証言と推測で判断するしかなかったからね。でも流石に、川の南側から来た子だということまでは分からなかったな」
【そりゃそうだ。オレは世界樹だから見ただけで分かるけど、人間には出身地までは判断できねえからな。それにあの子は人間に近いから、教会に行っても邪険にされることは無さそうだ】
その言葉を聞いたユールリアが俯いて小声で呟く。
「……じゃあ、仮にオズに助けられなかったとしても、私とティルは一緒に居られたのかな」
【さあな。オレは人間のことなんて知らねえから、無責任なことは言えねえよ。もしもあの子が教会で弾かれなかったとしても、孤児を2人も引き取れる家は限られてたと思うしな】
「僕も同意見だよ。子どもが居ない夫婦でも、教会で引き取る子は基本的に1人だけだし。まあ僕は君の望みなら、何でも叶えてあげるから……君が最初から僕に頼んでくれてたら、同じように引き取ってあげたと思うけど」
ユールリアは喜びと呆れが混ざったような目でカズラを見た。カズラは何も言わず、ただ笑っているだけだった。




