捕縛
子供たちは広い屋敷の中を必死に走って、庭に出た。けれどそこで、兵士たちに取り囲まれてしまった。
「報告にあった子供か。どうする?」
「どうするって……とりあえず、この屋敷から安全に連れ出してやらなきゃな。その後はまあ、教会に連れていくしかないか。この子たちを引き取る人間なんて居ないだろうし」
「だよなぁ。お前ら、じっとしてろよ。今、保護してやるからな」
そんな話をしながら、兵士が2人に近づいてくる。ユールリアはティルターシャを抱きしめて、兵士を睨みつけた。兵士の手が2人に届く直前に、彼らの背後にいた男性が言葉を発した。
「待て」
兵士たちの動きが止まる。人垣が割れて、男が歩いてくる。そこにいたのは、あの騎士だった。
「あれ、どうしたんです? 隊長は今回、後方待機の予定では?」
「子供の扱いに困っていると聞いたからな。様子を見に来た」
「誰ですか、そんな報告したの。ていうか、見れば分かるでしょ。もうこっちは終わったんで、大丈夫ですよ」
「お前たちは雑すぎるんだ。……さて」
男がユールリアに手を差し出す。
「教会に行きたくないというのなら、私の手を取れ。悪いようにはしない」
ユールリアは身構えた。彼女の後ろに隠れていたティルターシャが、口を開く。
「この人、嘘は言ってないよ。ついていってもいいと思う」
「そうなの? ……分かった」
ユールリアは男の手を取った。男は満足げに頷いて、周囲に向かって言葉をかけた。
「私の用事はこれだけだ。邪魔をしたな」
少女たちは男に連れられて、屋敷を出た。ティルターシャが男に向かって話しかける。
「私はティルターシャ。森の子供なの。この子はユールリア。人間の子供だよ。あなたは?」
「私か? ……そうだな。私のことは、オズと呼んでくれ。それでいい」
「ちょっと。こっちが本名を名乗ったんだから、そっちも本名を言うべきでしょ」
ユールリアが声を上げる。男は真顔になった。
「私の名など、どうでもいいだろう」
「何よ。自分の名前、嫌いなの?」
ユールリアは男を見つめた。彼は目を伏せて、ため息をついた。
「……オスヴァルトだ。お前たちも名乗っていなかったのだから、家名は必要ないな?」
「家名が嫌いなの? いいわよ別に。私にもティルにも、家なんて無いのと同じだし」
ユールリアの言葉を聞いた男が、安心したような様子になる。
「そうか。……そうだな、私も同じようなものだ」
ユールリアはその言葉を聞いて首を傾げた。男の身なりは、ひと目で上流階級の人間だと分かるものだ。
(家がないなんて、そんなことはないと思うけど……。この人にも、何か事情があるのかしら)