公爵夫妻
「さて。そろそろ公爵夫妻が我慢できなくなって、声をかけてくる頃だと思うけど……」
開いたままの扉に視線を向けてカズラが呟く。扉の向こうに立っているキルシュが、苦笑を浮かべて隣を見た。
「そうだね。トリフォが糸を張って抑えてるけど、さっきから何度も聞かれてるよ。カズラさんの用事は、まだ終わっていないのかってね」
「だろうね。用件は?」
「お姫様たちの歓迎会を兼ねて、庭でお茶会をしたいんだって。お菓子は公爵夫人の手作りらしいよ」
「なるほど。それじゃあ後は、君たちの気持ち次第かな」
カズラはそう言って、少女たちに視線を向けた。ティルターシャがユールリアの目を見て口を開く。
「ティルはいいけど、ユーはどうする?」
「私、マナーとか分からないから……適当でいいなら行くけど」
「それは大丈夫だと思うよ。公爵夫妻は君たちの事情を知っているしね」
ユールリアの言葉を聞いたカズラが、笑いながら告げる。ユールリアはため息をついて、ティルターシャの手を引いた。
「そういうことならすぐに行きましょ。どうせ、葛くんもついてくると思うけど」
ユールリアとティルターシャが手を繋いだまま、カズラの横を通って部屋の外へ向かって歩いていく。オスヴァルトが2人の後に部屋から出ていった。カズラは3人を見送って、キルシュに向かって声をかけた。
「僕はあの子たちと一緒に行くから、後は頼んだよ」
キルシュは無言で頷いた。カズラが扉の隙間を通って廊下に出る。廊下の端で、ユールリアたちが公爵夫妻と立ち話をしていた。カズラはゆっくりと彼らに近づいて、公爵夫人に話しかけた。
「お茶会の用意は済んでいるんですよね? 話ならそこで。急に質問攻めにされても、彼女たちが困ってしまうでしょうから」
「……そうね。カズラの言うとおりだわ。詳しい話は庭に行ってからにしましょう」
公爵夫人は目の下の隈を化粧で隠して、無理やり笑顔を作った。そして彼女は夫と共に庭に向かった。ユールリアが小声で言う。
「あの人、かなり疲れているみたいだったわ」
「家を出たオスヴァルトが心配で、夜も眠れていなかったんだ。本当は少し休んだ方がいいんだけど、どうしても君たちの歓迎会を開きたいと言ってきかなくてね。どうやら君たちをこの家に残すことで、彼が家から出ていかないようにしたいようだけど……まあ、適当に付き合ってあげたら満足してくれるんじゃないかな?」
カズラがユールリアに合わせて声をひそめる。ユールリアは彼の言葉を聞いて目を細めた。
「オズはお母さんに愛されてるのね。素敵なことだわ」




