客室
「ユーも、こういう部屋に住んでいたの?」
豪華な家具が置かれた広い部屋を見渡して、ティルターシャが感嘆の息を吐く。ユールリアは困ったような顔をした。
「父の家は子爵家。母の家は男爵家だったから、広さも豪華さも公爵家には敵わないわ」
「でも、ユーは貴族だったんでしょ? ユーの部屋もここと同じようにすごく広くて、いろんな物が置いてあったんじゃない?」
ティルターシャがユールリアに近づいて、上ずった声で話を続ける。ユールリアはその様子を微笑ましそうに見守った。
(前に来たときは、ゆっくり見る時間もなかったものね)
ティルターシャは精霊の子だ。森の木々に囲まれて育ち、人買いに拐われた彼女にとって、公爵家の客室は初めて見る物ばかりの珍しい場所なのだろう。そう思いながら、ユールリアは室内を見回した。
「私の部屋の大きさは、この客室の半分もなかったわ。家具だって、小さな机と椅子があるだけだった。それはそうよね。ここは公爵家。私の実家は子爵家だったんだから。オズならよく知ってるでしょ。私とあなたは、同じ貴族でも格が違うってこと」
ユールリアが目を伏せて呟く。オスヴァルトはそんな彼女の姿を見て苦笑を浮かべた。
「すまないな。私はそういうことに疎くて……それに、大したことではないだろう。私はもう、公爵家の人間ではないのだからな。お前たちと同じだよ。地位も身分も、今の私には関係ない」
「ああそう……」
ユールリアは呆れたような顔になって、クローゼットの扉を開けた。クローゼットの中には、上等なタキシードやコートが詰め込まれている。
「公爵家には男の子しかいないから、男性用の衣服しか入ってないけど……良い生地を使ってる。仕立てもしっかりしてるから、これを売れば普通の人が5年暮らせるくらいの額になりそうね。私のお父さんが持ってたパーティ用の服なんて、何年も着てたからボロボロになってたわ。その1着を、お父さんは大切に着ていたの」
オスヴァルトとティルターシャがユールリアの顔を見つめる。彼女は目を細めて言った。
「確かに私の両親は貴族で、お父さんが生きていた頃は普通の人よりもいい暮らしができていたわ。でもそれは、公爵家と並べて語れるような話じゃないのよ。同じ貴族でも、絶対に超えられない壁があるの」
ティルターシャが心配そうな顔で口を開く。
「じゃあ、ユーのお家は……ウィアー子爵の屋敷は今、どうなってるの?」
「さあね。私は知らないけど、もしかしたら葛くんが手を回してるかも。彼、そういうことが得意だから」
ユールリアはクローゼットの扉を閉めて振り返った。彼女は寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべて告げた。
「私の義理のお母さんは、伯爵家のお嬢様だったの。格下の子爵家に嫁がされて、今までのような暮らしができなくなって……だから私を売ったのよ。妹をもっと良い家に嫁がせて、贅沢な暮らしを送るために」




