王国と龍
トリフォは船を大陸の北東に移動させた。そして目立たない場所に止めて、錨を海に沈めた。5人は船から下りて、ノアルミナの王都へ向かった。
「それにしても、君が自分からカズラさんに会いにいってくれるなんてね」
キルシュがユールリアに話しかける。ユールリアは横目で彼女を見た。
「別に、葛くんの思い通りになる気はないわ。そのために、オズから短剣を借りたんだから」
鞘に入った短剣を抱きしめて、彼女が微笑む。キルシュは楽しそうな笑みを見せた。
「トリフォ。分かってるよね?」
トリフォが無言で頷く。5人は王都の門を潜って、公爵家の前まで歩いていった。オスヴァルトが屋敷の扉についている鈴を鳴らす。屋敷から出てきた使用人が、彼の顔を見て固まった。
「……お帰りなさいませ、オスヴァルト様。どうぞ、お入りになってください」
使用人が扉を開けて、5人を屋敷に招き入れる。彼らはそのまま応接間に案内された。応接間の長椅子に、5人が横並びになって座る。彼らを案内したのとは別の使用人が、5人の前にお茶を置いた。遠くから小走りで走ってくるような足音が聞こえてくる。その足音の主は、使用人たちが部屋から出ていくのと入れ違うようにして、部屋の中へと入ってきた。その人はオスヴァルトの弟の、レオポルトだった。彼は涙を流しながらオスヴァルトにすがりついた。
「兄上! 良かった、帰ってきてくださって……! カズラに感謝しなければなりませんね。これで兄上が、ずっと家に居てくださるのですから」
「いや、私は用が終われば、また旅に出るつもりだ。ユールリアやティルターシャと共にな。ここに来たのは、ノアルミナの新たな英雄に会うためだが……カズラは今、屋敷にいるのか?」
「カズラなら、今は王宮にいると思います。彼は他国との交渉を任されていて、あまり家には帰らないので。それに、兄上が旅に出る必要はないでしょう。兄上に子供ができない理由も、兄上が人間離れしている理由も、もう分かっているのですから。カズラが僕たちにそのことを話してくれたんですよ。兄上がこの世界を支え続けている存在と同じだということを」
弟の言葉を聞いたオスヴァルトが目を見開く。
「……気味が悪いとは思わなかったのか? 私は、人間ではないのに」
レオポルトはその言葉を聞いて、泣きながら笑った。
「初めてカズラの話を聞いたときは驚きましたが、彼が繰り返し説明してくれたので、理解はできているつもりです。兄上のことも、兄上が大切にしている子供たちのことも。父上は兄上と子供たちのために庭に小さな家を建てていますし、母上は兄上が連れて帰る子供たちに会うのを楽しみにしていますから。とにかく、このことを父上と母上に伝えて……」
彼は涙目のまま立ち上がり、応接間から出ていこうとした。オスヴァルトは慌てて彼を呼び止めた。
「待ってくれ。私は本当に、カズラという名の男に会いたいだけだ。彼が帰ってくるまで、客間で待たせてもらえればそれでいい。1度家を出た私は、もうこの家の人間ではないからな」




