お人好し
「すいませんが、急用を思い出したので帰ります」
ユールリアは笑みを浮かべて早口で言った。そしてオスヴァルトと共に船に戻った。船で待っていたティルターシャが、帰ってきた2人を見て首を傾げた。
「早かったね。何かあったの?」
「葛くんがバカな噂を流してるのよ。自分は龍の子孫だとか、神様の血を継いでいるとか」
ユールリアが呆れ顔で呟く。オスヴァルトは考え込むような表情になって、目を伏せた。
「……私には、その噂が嘘だとはとても思えない。彼に会って、確かめたいんだ」
「私は反対よ。葛くんがこんな噂を広範囲に流すなんて、どう考えても罠だから。大体、彼は孤児だったんでしょ。王家の人間じゃないと思うけど」
「いや、王家かどうかは関係ない。私と同じ存在である可能性は高い。それを確かめるには、直接彼に会わなければならないんだ」
「あの古い砦から出る時に、オズも葛くんと顔を合わせてたでしょ。その時、彼はオズのことを知らなかったわ。オズも彼のことが分からなかったんだから、同じ存在だとは思えないけど」
「あのときは、私が自分のことを理解していなかったからな。彼も私も気づかなかったとしても、無理はない。今なら会えば分かるはずだ。罠だとしても、私1人で行けばいい。私は、何があっても傷がつかない頑丈な体を持っているからな」
「あのねえ……」
ユールリアがため息をついた。
「私はこんな罠には引っかからないし、私が罠だと言えば、ティルはそれを信じて動かないでいてくれるでしょ。キルシュさんとトリフォさんを呼びたければ、罠を張るようなことはしなくていい。だからこの罠は、オズを招き入れるための物よ。罠だと分かっているのに、1人で行くのは危険だわ」
「だが、相手が私なら構わないのではないか? もしも罠だったとしても、世界と繋がっている私なら問題なく抜け出せるだろう」
「だから、葛くんがオズのことを知っているのが1番の問題なのよ。オズが世界と繋がっていることが分かっていて、彼が罠を張ったとしたら。彼の前に出た時点で、もう詰んでいることになるの」
「しかし……彼はお前が言うような、恐ろしい人間だとは思えないが」
「そういうところよ!」
ユールリアが叫ぶ。彼女はオスヴァルトを見上げて告げた。
「オズは優しすぎるの。葛くんのことだから、絶対に何か企んでるわ。それが分かっていて、1人で故郷に帰るなんて……」
「では、彼があの砦から、羽が落ちるような軽やかさで下りてきた理由も分かるのか?」
オスヴァルトは真剣な表情で問いかけた。ユールリアが目を細める。
「その理由は彼に聞いてみないと分からないけど、オズがどうしてもって言うのなら私も行くわ。大丈夫よ。もう全部思い出したから、彼の好きなようにはさせないわ」
2人の話を黙って聞いていたティルターシャが、ユールリアの腕を掴んで口を開く。
「ティルも行く」
「そうね。こうなったからには、全員でノアルミナに行くしかないわ」
ユールリアの言葉を聞いて、トリフォが船をノアルミナに向かって移動させ始めた。




