噂話
「俺たちが居た大陸が見えるように、常に一定の距離を保っておいてくれ。俺が乗っているこの船は、気を抜くと裏側に迷いこんでしまうかもしれないからな」
オスヴァルトはそう言った。トリフォがその言葉を聞いて、船の位置を調整する。
「海の上に別の大陸や島は浮かんでないみたいだね。食料が心もとなくなってきたけど、お姫様はこれからどうするつもりなのかな?」
キルシュが楽しそうな笑みを見せる。ユールリアは遠くにある大陸を見つめながら口を開いた。
「ノアルミナから1番遠い、陸地から離れた場所で船を止めておいてください。そうしたら私がオズと一緒に船から下りて、大陸まで泳いでいきますから」
「泳いでいくなんて、ちょっと大変すぎるんじゃない? 陸地の側に止めればいいのに」
「そんなことをしたら、キルシュさんとトリフォさんが葛くんと連絡を取るでしょ? オズが私を連れて泳いでくれるなら、溺れることもないと思うし」
「そうだな。だが大陸に渡りたいのなら、もっと安全な方法がある。水面を歩いていくんだ。そうすれば濡れずに渡ることができる」
2人の話を聞いていたオスヴァルトが、真顔でとんでもないことを言い出した。ユールリアが半目になって声をかける。
「私、そんなことできないんだけど?」
「私がお前を抱いて渡ればいいだろう。お前が望むのなら、ティルターシャも連れていける」
「……本当はそうしたいけど、3人で船から出ていったらキルシュさんとトリフォさんも付いてきちゃうから……」
「ティルは、船に残った方がいいね」
ティルターシャが微笑む。
「大丈夫だよ。ユーは絶対帰ってきてくれるって、信じてるから」
「ごめんね。ありがとう」
トリフォが船を動かして、大陸の南西に移動させる。そして彼は陸地から離れた場所で船を止めた。オスヴァルトがユールリアを抱き上げて海の上に立つ。彼は地面の上を歩くのと同じように、波の上を歩いた。大陸に近づいた2人は、そこで自分たちを興味深そうに見ている人たちと出会った。オスヴァルトが立ち止まって船に戻ろうとする。それを見て、陸地にいる人たちが笑顔になった。
「なんだい、帰るのかい? せっかく来たんだ、少しゆっくりしてきなよ」
「そうだよ。あんたら、ノアルミナにいる龍の仲間なんだろ?」
「ありがたいねえ。神様の血を引く高貴な方と、こんなところで会えるなんて。これもきっと、神様のお導きだよ」
そんな言葉が聞こえてくる。オスヴァルトが首を傾げた。
「確かに私は世界を作った生物と同じ存在だが……。なぜ、そんなことを知っているんだ?」
「そりゃあ知ってるに決まってるよ! あんたと同じ龍の血を継いでる人間が、ノアルミナの英雄さんなんだから」
そんな会話が聞こえてきて、ユールリアは渋い顔をした。




